【旧稿再掲】映画「ブラックパンサー」と「黒人捕手」

現地時間の8月28日(金)、米国の俳優チャドウィック・ボーズマンが逝去しました。享年43歳でした。

ボーズマンさんは、映画『42~世界を変えた男~』(原題:42、2103年)や『ブラックパンサー』(原題:Black Panther、2018年)の主演俳優として著名です。

特に『ブラックパンサー』については、アイアンマンやキャプテンアメリカなど「白人のヒーロー」を世に送り出してきたマーベル・スタジオが初めて「黒人のヒーロー」の映画を製作したこと、さらに舞台となるアフリカの小国ワカンダが高度な科学技術を持つことなど、ハリウッド映画の既存の枠組みを超えた、ボーズマンさんの代表作となりました。

私は、2018年4月9日(月)に発売された日刊ゲンダイの2018年4月10日号の27面の連載「メジャーリーグ通信」の第24回で「映画「ブラックパンサー」と「黒人捕手」」と題し、ボーズマンさんや『ブラックパンサー』について言及しています[1]。

そこで、今回、ボーズマンさんの追善として旧稿を再掲し、以下に本文をご紹介します。

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映画「ブラックパンサー」と「黒人捕手」
鈴村裕輔

今年3月1日(木)に封切られ、現在も一部の映画館で上映されている米国映画『ブラックパンサー』(原題:Black Panther、2018年)は、米国で公開から5週連続で興行成績1位を記録するなど、日本でも話題となっている。

主人公が祖国の秘密を守るために世界中の敵と戦うという『ブラックパンサー』の筋立ては「ヒーロー映画」の型通りの内容で、意外性はない。

だが、チャドウィック・ボーズマンがブラックパンサーに変身する主人公ティ・チャラを演じ、アイアンマンやキャプテンアメリカなど「白人のヒーロー」を世に送り出してきたマーベル・スタジオが初めて「黒人のヒーロー」の映画を製作したこと、さらに舞台となるアフリカの小国ワカンダが高度な科学技術を持つことなどは、ハリウッド映画の既存の枠組みを超えている。

また、映画を鑑賞したアフリカ系米国人の子どもたちが「自分も何でも出来そうな気がする」と感想を述べ、米国前大統領バラク・オバマの夫人ミシェル・オバマも「素晴らしい映画」と称賛するなど、米国内では「『ブラックパンサー』はヒーロー映画という枠を超えて社会現象となっている」という見方がもっぱらだ。

その一方で、「黒人のヒーロー」が活躍する映画が大きな話題となる点に、米国における人種差別、あるいは人種間の格差の根深さの現れを見出す者も少なくない。そして、スポーツの分野でも人種間の格差、とりわけアフリカ系米国人選手の地位がしばしば問題となっている。

「大リーグ最初の黒人選手」であるジャッキー・ロビンソンが引退した1956年、大リーグにおけるアフリカ系米国人選手の割合は6.7パーセントだった。その後も1981年に大リーグ選手の18.7%がアフリカ系米国人選手になるなど、「黒人選手」は大リーグに不可欠な存在になったかのようであった。

しかし、1993年に初めて大リーグにおける選手の割合が中南米系選手を下回ると、その後もアフリカ系米国人選手の数は減り続け、2017年時点での割合は7.7パーセントと、60年前とほぼ同じ水準となっていた。

さらに、守備位置別で見ると、アフリカ系米国人の選手は内野手と外野手で一定の割合でいるものの、投手になると選手の数が減り、捕手に至っては皆無に近い。2018年の開幕戦では、捕手として出場したのは、全員が白人か中南米系の選手だった。

もちろん、ブルックリン時代のドジャースで活躍したロイ・キャンパネラのようにイタリア系の父とアフリカ系の母を持つ選手がいることも事実だ。

しかし、アメリカンフットボールでクォーターバックを務めるアフリカ系米国人選手が例外的であるように、試合の要となる捕手の座をアフリカ系米国人の選手が占めていないことは、米国のスポーツ界における人種間の格差の根深さを示唆する。

その意味で、『ブラックパンサー』が社会現象になることと大リーグでアフリカ系米国人の捕手がほとんどいないことは、実はどちらも米国社会の現状をわれわれに伝えているのだ。
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[1]鈴村裕輔, 映画「ブラックパンサー」と「黒人捕手」. 日刊ゲンダイ, 2018年4月10日号27面.

<Executive Summary>
"Black Panther" and African American Catchers in the MLB Show Racial Biases in the USA (Yusuke Suzumura)

Mr. Chadwick Boseman, an actor of the USA, had passed away at the age of 43 on 28th August 2020. In this occasion I introduce my past article entitled with ""Black Panther" and African American Catchers in the MLB Show Racial Biases in the USA" was run on 9th April 2018.

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