「完全版」の刊行を期待させる西川きよしさんの「私の履歴書」

今日、2022年10月度の日本経済新聞の連載「私の履歴書」が終了しました。

今回は漫才師で元参議院議員の西川きよしさんが30回にわたり記事を担当しました。

西川きよしさんといえば「小さなことからコツコツと」という一言や横山やすしさんとの「やす・きよ」としての活動、あるいは国会での社会福祉問題への取り組みなどが広く知られるところです。

1か月にわたる連載では、こうした周知の話題について、「やす・きよ」の結成当初は劇場のボイラー室で発音と活舌の練習を行い、絶頂期には東京と大阪を1日2往復したことや、1986年の参院選に当選した後に所属した法務委員会での臨席が宮本顕治や関嘉彦であったこと、あるいは年金支給日の変更や介護保険制度の実現といった取り組みが自らの体験に根差したものであったことなど、これまで触れられてこなかった逸話とともに紹介されたのは、意義深いものでした。

また、これまで既婚の男性が執筆する場合の「私の履歴書」では、家庭生活に関する記述は最低限にとどめられたり、「家庭を顧みるいとまがなく、妻には迷惑をかけ通しであった」といった趣旨の記載がほとんどでした。

これに対して、西川さんは妻であるヘレンさんとのなれそめから結婚に至るまでの様子を詳述するだけでなく、選挙への出馬や議員としての活動、さらに家庭生活そのものなど、その後も折に触れて自らの活動に重要な役割を果たしてきたことも丁寧に描き出します。

社内の反対を押し切る形で吉本興業のスター女優であったヘレンさんと結婚したという経緯からしても、西川さんがヘレンさんを尊重するのは当然かもしれません。

それでも、日々の活動の中でどれほど妻の役割が重要であるかを具体的な事例とともに縷説する様子は、それだけ西川さんにとってヘレンさんの存在が大きいことを示しており、今回の連載の大きな特徴をなしていると言えるでしょう。

これに加えて、2020年に文化功労章を受章したことに対して「国会議員だったから」という批判が起きた点について国会議員としては2016年に旭日重光章を受章していることを示し、あくまで漫才師としての活動が顕彰されたと強調する点は、西川さんの漫才師としての矜持を示すものです。

何より、第1回目と第30回目の書き出しを「おはようございます」で始める工夫は西川さんが生涯を漫才師として送るという気概を推察させます。

このように、細部まで目配りの行き届いた今回の「私の履歴書」は大変興味深いものであり、連載の中で言及されなかった話題を収めた完全版というべき内容が単行本として上梓されることが大いに期待されます。

<Executive Summary>
Kiyoshi Nishikawa and Half His Life Seen from My Résumé (Yusuke Suzumura)

Mr. Kiyosih Nishikawa, a comedian and the Former Member of the House of Councilors, writes My Résumé on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 31st October 2022.

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