ベートーヴェンの交響曲第9番の初演から200年目によせて

本日、1824年5月7日にウィーンのケルントナートーア劇場においてベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」が初演されてから200年目を迎えました。

交響曲の頂点であり、欧州連合の歌として第4楽章が用いられたり、ワーグナーが交響曲は本作で終わり、自らは歌劇における交響曲の創出を志して「楽劇」へと至ったりしたことは広く知られるところです。

ベートーベンの「第九」にはこれまで多くの優れた演奏があり、会場や録音でわれわれに様々な印象を与えています。

一方、初演の際は好評を博すだけでなく、現在は傑作とされながら当初は「長すぎる」と評価の芳しくなかった交響曲第3番「英雄」と同じく、長大な作品であるということも含め特に独唱と合唱の入る第4楽章は交響曲に似つかわしくないと否定的な受け止められ方をしたものです。

それでも、2台のピアノ用に編曲されて徐々に人々に浸透するとともに、少年期からベートーヴェンに傾倒していたワーグナーがザクセン選帝侯の宮廷楽団指揮者としてドレスデンでの公演で取り上げて成功を収めてからは、ベートーヴェンの9番目の交響曲は偉大な作品とみなされるようになり、今日まで広く知られる作品として位置づけられています。

ワーグナーの交響曲第9番への愛着の深さは、自らの作品の身を取り上げるバイロイト音楽祭において唯一例外として演奏される他の作曲家の作品が「合唱付き」であることからも窺われます。

また、日本においては年末に演奏されることの多い「合唱付き」は、欧州の場合は5月の初演ということもあって若葉の季節の作品として受け止められる傾向があります。

もちろん、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のように12月31日に「合唱付き」を演奏する習慣を持つ楽団もありますから、日欧の差が一概に定められないという点も含め、一つの作品に対する印象を考える上でベートーヴェンの交響曲第9番は興味深い実例となると言えるでしょう。

あるいは、CDの企画を決める際にヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮する交響曲第9番を1枚に収録できる長さが基準となったという逸話が示すように、本作は録音と深く関わっており、数多くの優れた録音が現在まで残されています。

このように眺めれば、ベートーヴェンの交響曲第9番よりも優れた作品や偉大な作品はあるとしても、ベートーヴェンの交響曲第9番よりも人々に親しまれ、社会に対する大きな影響力を持つ作品はないと言えるかもしれません。

そして、これからも様々な演奏会場や録音を通して、ベートーヴェンの交響曲第9番はわれわれに大きな印象を与え続けることでしょう。

<Executive Summary>
Celebrating the 200th Anniversary of the First Performance of Beethoven's 9th Symphony (Yusuke Suzumura)

The 7th May, 2024 is the 200th Anniversary of the First Performance of Beethoven's 9th Symphony played at Vienna on 7th May 1824. It is the greatest symphony both for the orchestral music and our society.

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