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代官山の洋書セール

代官山の蔦屋書店でたまに開催される洋書のバーゲンセール。もちろん対象商品は限られている。しかし蔦屋書店のあつかう書籍のジャンルがわたしの好みにぴったりなので、とても気になっていた。

今週末で会期が終了する展覧会を観に行こうかと考えていたのだけど、たまたまソーシャルメディアで今回の洋書セールがあることを知った。しかも最終日の日曜日、5点以上買えばすべてが80%引きという太っ腹さ!

これは行かねば!

そういうわけで予定変更。まだ代官山には行ったことのない長男を誘ってみたけど消極的だったので、結局ひとりで出かけることにした。わたしは蔦屋書店にはいつも長居してしまう。だから自制のためにも長男に声をかけたのだけど、結局ひとり。ちゃんとキリをつけて帰れるだろうか・・・。

ドアトゥドアで1時間半ぐらいかかる。たしかに受験生の時間をそれだけ奪うのは良くないなぁなどと思いつつ、電車にゆられて小説を読みながら代官山へ向かった。

昨年の春のジュエリー展で書いたように、代官山はわたしの好きな街だ。

お洒落なお店がたくさん並ぶ街並みは、歩くだけで楽しくなる。ついでにいえば外国の大使館もおおいので、いろいろな国旗・国章が見られる。旗マニアのわたしにとっては重要なポイントだ。

それで、本を買ったらあの店へ行こう、この店を見よう、と散策コースを想定していたのだけど、当初の心配はどこへやら、じつはほとんど寄り道せずすんなりと帰宅の途についた。なぜならば購入した書籍があまりにも重かったから。薄手のトートバッグふたつに分けて入れても、バッグが破れないか心配になるほどの重さだった。

バーゲンセールで買った重たい本たち。これらを早速「一日一画」のスケッチに描いた。

予算は10,000円。購入したのは結局6冊。悩みに悩んだ末に選んだ6冊。税込みで12円ほどオーバーしてしまったけど、まぁ許容範囲だろう。ベストな選択だったと思う。

このままでは勿体ぶったままで消化不良なので、その6冊を簡単に紹介。

Grimm's Complete Fairy Tales

The Brothers Grimm著 Margaret Hunt訳, Canterbury Classics刊, 2011年

ご存じグリム童話。この装丁に一目惚れした。古く見えるけれど出版年は2011年。乱丁があるので、もしかしたらそれでセールの対象になったのかもしれない。200編以上の童話が収録されていて、そのおおくは中学生でもだいたい読めそうな感じ。長男に薦めてみたけど、一瞥もくれず拒否されてしまった。次男もふくめて、いつの日か興味を示してくれるようにリビングに置いておこう。

Gotico-Antiqua, Proto-Roman, Hybrid: 15th Century Types Between Gothic and Roman

Atelier National de Recherche Typographique, Nancy編 2021年

昨年おこなわれたシンポジウムと展覧会の論文集と図録。内容は英語とフランス語。フランス国立のタイポグラフィ研究会という組織があるなんてまったく知らなかった。わたしはタイポ好きだけれど、好きなだけで専門家ではない。こうしてその分野の研究者の仕事にアクセスできるのは、とてもラッキーだ。

グーテンベルクが活版印刷を開発した直後のヨーロッパ出版事情。ゴシックとローマンのあいだの字体の変遷を科学的に分析した論考はかなりスリリング。デジタル化した大量の字体を統計処理で生物進化の系統樹のように分類したり。まだざっと目をとおしただけだけれど、しっかり読みこむ価値がありそうだ。

A History of Arab Graphic Design

Bahia Shehab & Haytham Nawar著 The American University in Cairo Press刊 2020年

タイポ好きのわたしの関心は言語を問わない。わたしは長らくアラビア書道もやっているので、アラビア文字圏のタイポグラフィにもいつも注意をはらっている。

この本は、アラビア書道やタイポグラフィに特化したわけではないのだけど、かなり幅広くアラビア語圏のグラフィックデザインを網羅している。そう、書道とはいうけれど日本の書道よりグラフィックデザイン的な要素がつよいのがアラビア書道。

この本は、中世のイスラーム文化からはじまり、西欧の印刷文化の受容、文化的政治的な色彩をおびて独自の発展をした近年の印刷物までを分析している。とくに20世紀以降の資料が充実しているので、これもしっかり読みたい。内容は英語。

COROT the Painter and his Model

Sébastien Allard著 Edition Hazan刊 2018年

パリのマルモッタン・モネ美術館での展覧会の図録。著者は同館の学芸員。フランス語と英語。コローといえば風景画だけれど、人物画もたくさん描いていた。そんなコローの人物画に焦点を当てた内容。モデルについてわかっていること、コローに影響をあたえたほかの画家とのエピソードなどにも言及されている。

印象派に影響を与えたバルビゾン派の重鎮のイメージがつよいコロー。この図録を観ていると、世間の評価がかなり偏っていることに気がつく。ティツィアーノやアングルといった先人が居たからこそコローがたどり着いた境地があるのがわかる。

The Painter's House: Balthus at the Grand Chalet

Achirmer Art Book刊, 2000年

篠山紀信が1993年に撮影したバルテュスの写真集。バルテュス一家が棲むスイスアルプスのグラン・シャレが舞台。グラン・シャレは山に囲まれた木造の歴史建造物。絵描きとしては憧れの制作環境だ。

そういえばいつだったか同様の写真が載った『芸術新潮』を買ったっけ。わたしはバルテュスのライフスタイルに憧れているのかも。

Max Ernst Collagen Inventar und Widerspruch

Werner Spies著, DuMont刊, 1974年

最後まで迷って選んだ1冊。箱入りの豪華本。中が見られなかったのだけど、背表紙からドイツ語なのはわかっていた。わたしはドイツ語を読めないのでかなり悩んだ。それに今回買った6冊のなかでは最も高額だった。最終的にこれをカートに入れるにあたって、ほかの2冊を棚にもどした。

先日のAIの記事にも書いたけれど、これからシュルレアリスムの再興があるんじゃないかなんて考えている。わたし自身もなにかできないだろうかと欲張って考えている。

そのシュルレアリスムの騎手、マックス・エルンスト。エルンスト作品については、コラージュ小説『百頭女』(巖谷國士訳, 河出書房)のほかは、わたしの手元にはシュルレアリスム関連の画集に掲載されているものぐらいしかなかった。

シュルレアリスムについての文章を読んでいると必ず登場するエルンスト。コラージュを創出したエルンストは、つねにモチーフの傍観者でありつづけた。場違いなモチーフを組み合わせて表現するデペイズマン系列のシュルレアリストにあって、ダリやマグリットよりもずっと客観的に超越した視点に立っている。

そのエルンストの作品集。タイトルにはコラージュとあるけれど、実際には版画の切り抜きを貼り合わせたコラージュだけでなく絵画作品も掲載されている。

『百頭女』もそうだったけど、使い古されたモチーフにまったくことなる存在感を与えるその手法は、アンドレ・ブルトンの自動記述オートマティスムを忠実に視覚化したものだと思う。

たしか澁澤龍彦が錬金術に喩えていたけど、言い得て妙だ。エルンスト作品が醸し出すなにかには真理があるような気がして、この本を選んだ。そのなにかを見つけるには、まだ時間がかかる。帰宅後に開封してページをめくり、これはことあるごとに見返すタイプの本だなぁと思った。ドイツ語も勉強しないと。

最後のエルンスト作品集がちょっとながくなってしまったけど、これが今回購入した6冊の書籍。大半が厚い装丁なのでかなり重かった。

デザインと美術に偏ったけれど、こうした本こそ普段なかなか買えないからありがたい。つぎのバーゲンセールに行くかどうかは未定だけど、できれば今回買った本をしっかり消化したうえでのぞみたいと思う。

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