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愛って。

本降りだった大阪に引き換え、夕方の神戸の雨はほぼ上がっていた。

大阪では予想以上に時間を使ってしまった。行きたかったお店で話し込んでしまったり、思わぬところで足止めを食らったりで、まだ訪問したいところが残っていたが、うしろ髪を引かれながら神戸へと向かった。

ホテルにチェックインしたのち、今週末ポップアップでお世話になる眼鏡屋「折角堂」に挨拶に行き(こちらでも話し込んでしまう)、気になっていたお店をチェック、夕飯を済ませた後、「にしむら珈琲店 元町店」に行った。

夜9時ごろでほぼ満席だった。お客のほとんどが年配のグループで、皆楽しそうに談笑していた。どこか品のあるお客さんが多いのもいつも通りだった。私はコーヒーと「アプフェルシュトゥルーデル」というアップルパイのようなケーキを注文した。


ところで、「にしむら珈琲店 元町店」でピンときた方は、このnoteの相当ヘビーな読者であろう。過去何度か紹介している、私の大のお気に入りの喫茶店だ。

「にしむら珈琲店 元町店」に関して、どんなことを書いたか確認しようと思い検索してみると、3つの記事がヒットした。

2年ほど前のふたつの記事は、この喫茶店の素晴らしさを周知しようとして書いたものだ。ぜひ読んでみてほしい。

このふたつの記事のことは、大まかな内容まで含めて覚えていた。しかし、残りひとつは身に覚えのないものだった。

それがこちらの記事。

昨年の夏、彼女にフラれた私は、青春18きっぷを使って西へと旅に出る。この記事はその2日目、静岡から倉敷に向かう道中について書かれたものだ。

神戸で途中下車をし、そこで「にしむら珈琲店 元町店」に立ち寄ったようだが、この辺りの記憶は曖昧だ。

この記事の後半、こんなことが書かれていた。

ホテルに戻る途中、たこ焼き屋さんを見つけた。美味しそうだったので、6個入りを注文。お店の前に置いてあるベンチに座って食べることにした。

蒸し暑い夜に、さらに熱々のたこ焼きが加わったことで、私は汗だくになりながらその6つのたこ焼きを頬張っていた。

すると、なぜかはわからないが、ふと、寂しくなった。

別に誰かが隣にいてほしい、と思ったわけではない。私としては珍しく、単純に「寂しい」という感情が湧き上がってきただけなのだ。そこには具体的な原因があるわけではなく、気が付いたら心の中にちんまりと“寂しささん”がいらっしゃった、という類のものだった。

たこ焼きを食べ終わる頃には、その寂しさはもう消えていた。ただ、私の中に、「寂しい」という感情があることに、私自身少し驚かされた。

ぼくのなつやすみ 2日目 〜寂しい気持ち〜』 Yuta Watanabe

この「寂しさ」は、彼女にフラれたことから来たものではないはずだ。想像するに、もっと漠然とした、捉えどころのないものだった。そして、この夜私は間違いなく、母に電話をかけた。寂しかろうが寂しくなかろうが、私はほぼ毎日、電話越しの母とよもやま話をしていたのだから。


この記事を書いた半年後に、母が2ヶ月の余命宣告を受け、その1ヶ月半後にあの世へと旅立ってしまうなんて、この時の私は思ってもみなかっただろう。

そう考えると、あの時私が漠然と感じていた「寂しさ」は、きっと本当ではなかったのだ。あるいは、後日訪れる真の「寂しさ」を予感するものだったのかもしれない。


「立派なお髭ですね。明治の文豪みたいだ」

にしむら珈琲店を後にする際、年配の男性店員がそう私に告げた。

「男性からは評判がいいんですけど、女性からはさっぱりで」

そう言うと彼は、

「そんなことは気にしなくていいじゃないですか、素敵ですよ」

と返した。

母はこの髭をどう思うだろうか。きっと気に入ってくれるだろう。


帰り際にコンビニに立ち寄った。炭酸水を買って帰るだけのつもりだったが、ふと、ここ最近雑誌を買っていないことに思い当たった。

以前はよく出張の際に気になる雑誌を購入し、ホテルでパラパラとページをめくっていた。最後に雑誌に手を伸ばしたのはいつだろう。いずれにしても、母が亡くなる前であることは間違いない。

ホテルの近くのコンビニの小さな雑誌コーナーには、水着の女の子の表紙ばかりで目のやり場に困ってしまった。そんな中「BRUTUS」が他の雑誌の後ろに隠れているのを見つけた。『愛って。』というテーマだった。

「その答えが見つかる名作映画300」というキャッチフレーズが表紙を飾っていた。ホテルに戻った私は、ページをめくりながらその300の映画の中で何本観たかを数えることにした。

君の名は、フォレスト・ガンプ、恋する惑星、崖の上のポニョ、ローマの休日、天使にラブ・ソングを…、シェルブールの雨傘、ドライブ・マイ・カー、アルマゲドン、ぼくの伯父さん、レオン、雨に唄えば、バック・トゥ・ザ・フューチャー、美女と野獣(ジャン・コクトー)、の14作品。映画に疎い私にしては“上出来”だった。

あと286本観れば、私は「愛」のなんたるかを知ることができるのだろうか。「愛」を知ったら、「寂しさ」は消えてなくなるのだろうか。

そんなはずはない、と分かってはいるものの、「本当の寂しさ」を身に纏っている今の私は、その286本をひとつひとつ観てみようかと思っている。


「その答え」なんて、そんなことは知りたいとも思わない。ただ、286本分の「愛」を観ている時間だけは、「寂しさ」を脱ぎ捨てることができるような、そんな気がするから。


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