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サッカーに「基礎基本」は必要か




サッカーは「基礎基本」が大切だ。
「基礎基本」ができてないと上にはいけない。
「基礎基本」ができてこそ応用が効く。

など、サッカーは何かと
「基礎基本」が大切だと耳にする。

それは僕が選手だった頃も。
そして指導者になった今も。

近年、日本サッカー界において「基礎基本」の
重要性を加速させている言語がいくつかある。


【止める蹴る】 【〇〇の質】
【個の能力】 【個の育成(強化)】

など。


これらの言語と紐付けされて「基礎基本」が
大切と言われている現日本サッカー界。

確かにキャッチーで耳触りも良く、
使いやすい言葉だなと思う。


しかし、僕はその常識を疑っている。


そもそもサッカーに基礎基本は必要なのか?


◾️なぜそう思うのか?


では、サッカーにおける「基礎基本」とは何か
あなたは明確に答えられるだろうか?

おそらく今の時代では
基礎基本ができる=「止める・蹴る・運ぶ」、
「ボールコントロールができる」
などと
答える人が多いだろう。


ではそれはどのように
〝できている〟と見極めるのか。

本当にそれだけができれば
基礎基本ができていると言えるのか。

どの程度できていたら
基礎基本が身についていると言えるのか。


おそらく評価するコーチの感覚値だろう。
(もちろんサッカーは全てを数値で測れないし
ほとんどが感覚値の評価なのだけど)


それでもきっと「基礎基本」が
〝どこまでできたら良いのか〟
明確な基準は存在しない。

そしてその正体すらもわからない。


時速50kmで飛んでくるボールをトラップできたら
「止める」はできていると言えるのか。

50m先までロングキックを蹴れたら
「蹴る」はできていると言えるのか。

で、それが仮に〝できた〟としても
試合で有効に使えるのだろうか。



1番身近な例を挙げると
うちのチームで今年、南北海道3位になった
4年生は驚くほどリフティングができない。

この前も試合の空き時間でやらせてみると
1発で20回できる選手は1人か2人。

10回以内に落としてしまう選手がほとんど。

というかうちのチームは各世代リフティングが
上手いヤツをそんなに見たことがない(笑)


世間が言うサッカーの「基礎基本」に
密接に関係があるとされるリフティング。

リフティングでボールをコントロールできないと
試合で思うようにボールを扱えるわけがない。
ということも耳にする。


リフティングが続く
=ボールコントロールが上手=良い選手


と仮定するならば

リフティングが続かない
=ボールコントロールが下手=良くない選手


となってしまう。

しかし彼ら4年生は試合が始まると
それなりに〝サッカー〟ができる。

ピッチに立てばボールを握って
勇敢にプレーができる。


だからこそ、僕は疑っている。


「基礎基本」という言葉が一人歩きしてるだけで
そこまで〝意識する〟必要はないのでは?
と。


明確にサッカーの「基礎基本」はこれ!
という理論がある人は
それを意識する必要性も具体的に教えてほしい。

僕は365日サッカーのことを考えているけど
未だにサッカーで「基礎基本」を
強く意識したことがない。

人は皆大事だと言うけど、その正体がわからない。

カッパと同じで、
噂話は散々聞いたことがあるけど
実際見たことないし説明できないんだよ。

サッカー界に広がる「基礎基本」というモノも
それに似た感覚がある。


でも人は口を揃えて言う。

「サッカーは基礎が大事だ」

「基礎基本ができていないと
 選手としての土台がない」

「小学生は基本の技術を
 身につけなければその先はない」



でもその「基礎」の正体がなんなのかを
明確に答えられる人はほとんどいない。

答えられたとしても往々にして
「止める・蹴る」の類だろう。

サッカーはそんなに単純なモノではないし、
単体で独立できない。

「これもあるし、あれもある」
「これとこれを同時に考えながらこれもやる」

というような〝同時進行〟の概念が大切だ。


では、なぜそのような思考が
現日本サッカーに多いのかを考えたところ、
しっくりきた推察が1つある。


◾️日本人が「基礎基本」を大切にする背景


学校体育
の影響だ。

例えば日本の学校体育の基礎となる運動は
跳び箱、マット運動、鉄棒である。

これらは体育の中でも評価基準にしやすい3種目で、
「できた or できない」を見分けるにも
白黒つけやすい運動である。

先生達も成績をつけやすく、
これらを熱心に教えられる教員は今でも多い。

そしてこれらは
個人でやる種目であり、
段階を踏んでいく教え方ができ、
スモールステップを踏めばある程度できる種目。

小さなことから大きなことへの考え方を
潜在的に定着させやすい。

つまり、
サッカーにおいて基礎基本が命だと唱える人は、
サッカーの上達法が学校体育の上達方法に
影響を受け過ぎているのではないか?

と推察する。

でも仕方ない。

日本人は学校体育を通ってきているから
基礎が大事だと12年間も教え込まれて育つ。


実際にマット運動の「前転」をやるためには

①手を床に着く
②へそを見る
③後頭部をマットにつける
④地面を足で蹴る
⑤回る
⑥膝を閉じて立ち上がる

という一連の流れがある。
非常に細分化していてわかりやすい。

「基礎基本」を大事にしている人は
こういう思考法をサッカーにも持ち込んでいる。

例えばこうだ。
サッカーにおいて技術がある選手は、

①ボールを止める
②ボールを蹴る
③観る
④判断する
⑤ボールを運ぶ

などができることを評価し、
基礎基本ができる選手の項目を分けて考える。

で、その考え方から一つ一つにこだわって
それらを「分けて」トレーニングする。

前転を成功させる5つの動きと
サッカーの項目を対比させて例に出したが、
ここで言いたいことは
「分けて鍛える発想」がどうなのかということ。

分けて考え過ぎてしまうからこそ
「基礎基本が大事」という思考に陥る。


もっと具体的にいえばこんな感じ。

①ボールを止める
②ボールを蹴る
③観る
④判断する
⑤ボールを運ぶ

①と②を上手くさせるために
「基礎基本」思考の人ならどう練習するか。

おそらくだが、2人組で向き合っての対面パス

もちろん対面パスは悪い練習ではないが、
今は考え方をわかりやすく説明するために
「例え」として書かせていただく。

では、↑の①②③④⑤を同時進行で養うことが
できると考える指導者はどのような練習するか。


例えば「ロンド(パス回し)」だ。

4vs2のロンド

ロンドは

①ボールを止める
②ボールを蹴る
③観る
④判断する
⑤ボールを運ぶ

これら5つ全てを同時進行で身につけられる。

ルールは指導者が色々と設定すれば
③の要素をより引き出せたり
⑤の要素をより引き出すことだってできる。

「いや、低学年はロンドができないだろう」
と思ったそこのあなた、
その発想が「基礎基本信者」である。

ボールが蹴れないと
パスは回らないと思うかもしれない。

確かにそうなんだが
ロンドの中で「蹴る」技術を身につければいい。

まだ低学年であればDFを1人にしてもいいし、
グリッドの大きさを調節するなど
いくらでも難易度をコントロールできる。

うちのチームでは小学校1年生から
当然ロンドを取り入れている。

ロンドに関しては
パスが複数方向から出てくるし、
常にDFが邪魔をしてくるし、
次に蹴りたいところにボールをコントロールして
DFが来る前にパスを出すプレーの速さも必要だ。

より試合と近い状態で、
「止める・蹴る・運ぶ」技術や
「見て判断して実行するチカラ」が
同時進行で養うことができる。

わかりやすくするためにロンドを例に出したが、
他の練習でも複数の要素を混ぜて
トレーニングしていくことが効率的だ。



そう考えれば考えるほど
基礎基本にこだわる重要性が
僕の中では必然的になくなってくる。


複数の要素を複合的に混ぜて練習することで
それは常に〝応用〟になり、試合で使えるのだ。


そして1つ記事を紹介する。

これは僕が伝えたいことを
端的に言ってくれている欧州の指導者の言葉。

僕はサッカー指導を始めた頃から
このような考え方を持って指導をしているが、
この記事は僕が口で言うよりも説得力がある。


※以下Yahoo!ニュース記事より


つまり、
小さいころは「技術だけ」とか
「基礎基本ができてから次」とか
「今の時期はこれしかやらない」なんていう
発想自体が現代サッカーから遅れている。




でもこういうことを言っていると、
だいたい批判や反感を喰らう。

大勢の人には理解してもらえないから。

だって基礎基本を大事にする方が
見栄えも響きも良いし、
正しく取り組んでいる感や
努力して積み重ねている感も出る。

まさに我々日本人が好む考え方だ。

そして同時進行派の僕などに対する大方の反論は
「同時進行だと何かが疎かになる」だ。

まさに「基礎基本」信者の意見である。

逆になぜ疎かになるのか僕は知りたい。

同時進行でしっかりやり続ければ
全てが満遍なく育っていく可能性が
高くなるという発想はどうだろう?

逆にサッカーの項目を整理できていない状態で
分離させて練習する方がリスクだし、
それが単体だとどの目的に向かっているか
わからなくなることもあるし、
もし分けて鍛える項目に漏れが出たら
それこそ疎かになるのではないかな?


そしてそもそも〝疎かになる〟なんて思うのは、
ちゃんと練習を組み立てられない証拠。


食事もそうだけど「体が強くなりたい」からと
肉ばかり食べていても胃腸を壊す。

肉を吸収するためには炭水化物も必要だし、
それを体にうまく運ぶためにはビタミンも必要。

同時進行で摂取する方が消化吸収の効率も良い。

サッカーも同じで、
何かに偏ったり、何かを分離させて考えていては
むしろスキルは伸びないし体を壊す可能性もある。


このnote内でもよく言っているが、
サッカーは何かに固執したり、偏ったり、
盲目になった瞬間、競技力向上の妨げに
なり得ると僕は考えている。

僕も時々そうなってしまうことがあるけど、
ギュッと視野が狭くなって
思考が硬直しそうになる前に、
力を抜いて俯瞰して
物事を考えられるかが大切だと感じる。


みんなが当たり前に使う言語や考え方も
一度は疑ってみるのも良いかもしれない。

僕はこの先もサッカー指導に関しては
自分の頭でしっかりと考えて
世間の常識を一度は疑うスタンスでいきたい。

ただ流行りに乗っかって
選手の成長を妨げてしまうことは避けたいから。

でも忘れちゃいけないのが
これは〝サッカー〟の話ということ。

勉強や学校体育、その他の物事は
「基礎基本」がとても大事だと思う。

それすら疑ってみるのも良いかもしれないけど。

僕はサッカーの指導者として、
常により良く、より最適なモノを
選手には届けたいと考えている。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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