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はじめてのロケット打ち上げ見学 〜弾丸企画の裏側とコツ〜

H2A型ロケット47号機が9/7朝に発射されるのを知ったのは9/5朝、つまり48時間前のこと。その瞬間「行こう!」と決めた。

人生で一度はロケット打ち上げを見たいという人も多いはず。そんなはじめてのロケット打ち上げ見学の顛末を書き連ねてみる。ちなみに1泊2日、種子島滞在時間は20時間だった。


種子島にロケット打ち上げを見に行くということ

ロケット打ち上げを見たい!と思う人は多いはずだが、なかなか実現しないのは以下の理由だろう。

  • 「いつ打ち上がるか分からない(=予定が組めない)

  • 「情報を得た頃には飛行機も、宿も、レンタカーもすぐに一杯になるだろう(=手配が大変)

  • 「運良く行けたからと行って、打ち上がるかどうかは分からない」

  • 「延期になった場合は翌日かもしれないし、翌月かもしれない」(=予備日も入れると相当の日程確保が必要)

いずれにせよ、いかに早く情報を得るかというのは鍵になりそうだ。今回僕は数日間の予定ががぽっかり空いて、その日程で打ち上げられたというのはかなり奇跡に近い。

関東から種子島へのアクセス


結論から言うと、首都圏からロケット見学のために種子島に行く方法は以下だ。
羽田→(飛行機)→鹿児島→(飛行機)→種子島

鹿児島→種子島は高速船もあるのだけど、
・鹿児島空港→鹿児島港のアクセスが悪い(バスとタクシーを乗り継いで1時間半)
・飛行機ノーマル運賃と船の値段差はトータルで(4千円程度)
の理由で選択肢から消える。

飛行機以外のアクセスは、今回のリアルで少し触れたので読み進めて欲しい。

屋久島にロケット打ち上げを見に行くということ でも触れたように、必ずしも予定日時に発射されるとは限らないロケットの場合、ピンポイントでの予定はかなりチャレンジングになる。フライトも変更可能なチケットで用意するのがベストだ。

変更できるチケットは以下の通り(ANAの場合)。
1.FLAX運賃
2.株主優待券(優待券はヤフオクで買える)
3.ビジネスきっぷ
4.特典航空券

1-3は当日でもフライトの前であれば予約の変更できる最強チケット。
4は前日までに発券する必要があり(つまり当日手配不可)、当日のフライトは翌日以降にしか変更できないという制限がある。

実際に経験したロケット打ち上げ見学は、
・いつ打ち上げ延期が発表されるか分からない(前日かもしれないし30分前かもしれない)
・いつ延期の日時が発表されるか分からない(翌日からもしれないし翌週かもしれない)
ので、可能であれば1-3で買っておくことがベスト。ここは割り切るところだ。

鹿児島⇔種子島間はJAL子会社のJTAが運行しているが、実はANAコードシェア便。ANAだと1.FLAX運賃(約16,000円)と同じ扱いの3.ビジネスきっぷが約13,000円で買えるのでお得。ただし往復での予約が必要。

種子島の宿泊事情

まずはホテルが選択肢に上がってくる。今回自分自身はホテルに泊まらなかったのだけど、前日や当日にネットで根気よく何度も探していたら、何度も空きがあるのを目にした。さらに、Airbnbでも常に空きがあった。

一方で現地で聞いた話では、最近(2023年)種子島では自衛隊基地の建設があり元々少なかった宿泊施設がさらに逼迫しているという噂も。

その経験から、ここでは「探し方次第では直前でもなんとなかなる」としておきたい(ならなかったらゴメンね)。さらに季節によっては他の選択肢もあることも含めて今回のリアル で自分の経験として紹介する。

種子島の交通事情

"島"というとあるって回れそうな島を想像する人も少なくないが、屋久島はでかい。特に縦に長く、端から端までは自動車でも1時間半を要する。

もちろん公共交通機関もあるけどタイムリーに使うことはできないし、通っている道も幹線なので、ロケット打ち上げのための場所までに行ってくれるはずもない。

ということで、現地での交通はクルマがあることを大前提としたい。クルマがないと相当に厳しいと思う。今回は偶然にも出発しようとしていた朝に1台空きが見つかったのも奇跡だった。

どうしてもクルマが手配できなかったけど行きたい!見たい!場合、ロケットファンには良い人が多いと思うので、保証は全く無いけどヒッチハイクも可能な気がする。実際現地でそうしている人もいた。

今回のリアル

ここからは出発を決めてからのことを時間軸を交えながらご紹介したい。

9/5 6:00
ニュースで9/7 8:42にロケットが打ち上げられる予定であることを知る。約48時間後だ。

直後にネットで思いつくだけのアクセス方法、選択肢、時間、空き状況を調べる。
・飛行機オンリー
・飛行機&高速船
・横須賀→門司までカーフェリー、門司からは運転して、再びフェリー
・自宅→鹿児島まで運転した後、カーフェリー
・飛行機に自転車を載せて現地では自転車移動
・鹿児島まで飛んで、キャンピングカーを借りてフェリーで行く

それと並行して、レンタカー空き状況、ホテル空き状況、打ち上げ見学情報をむさぼるように漁る。

9/5 7:00
諸々調べた結果、時間的制約から飛行機しかないと判断。
なんといっても打ち上げは約48時間後なので、明日中には種子島にいる必要がある。自分のクルマで今すぐ飛び出すことも考えたけど運転中は他の手配やら何やらが一切できないことを考えると、飛行機で一気に行くしかない。

飛行機の空き状況を見るとなんとか手配できそう。ネックは現地でのクルマだ。これがないことには行っても路頭に迷うだけで終わってしまう。しかし、どこをどう探しても全く空いていない。

でも決めた。
明朝までにはクルマが見つかっているはず。
クルマ問題は解決する前提で動こう、と。

9/5 13:00
仕事の手が空いたこの時間に、フライトを確保することに。

まずは本数も限られ機体が小さく定員も少ない鹿児島→種子島から。
この区間はJAL系のJTAが運航している。ここは迷わずノーマル運賃で予約(実はこの時、関東から屋久島へのアクセスで紹介したANAビジネスきっぷには気づかなかった・笑)。一番割高なチケットだけど、出発便の時間前であれば自由に変更キャンセルができる。価格は約16,000円。

次に羽田⇔鹿児島間。幸いなことに手持ちのANAマイルがあったので以下を手配。
9/6 ANA621便 羽田発9:20→鹿児島着11:10
9/8 ANA628便 鹿児島発16:40→羽田着18:25

ノーマル運賃と異なるのは以下の点だ。
・搭乗便を当日の別な便に変えるには、前日までの変更が必要
(例えば9/8の便を1便遅らせる場合には、9/7 23:59までの手配が必要)
・搭乗便を翌日以降に変えるには、出発前までの変更が必要
(例えば9/8の便を9/9に変更する場合には、9/8 16:40までの手配が必要)
ノーマルほどの自由はないけど、かなりフレキシブルだし特典航空券なのでこちらを選択。

ちなみにJALの特典航空券は大変残念ながら発券後変更できなくなってしまったので要注意。

相変わらずクルマは手配できていない。。

9/5 夕方
明日家を出るのは早朝になるので、とりあえず2泊3日の荷造りをしておくことにする。ロケット打ち上げに関しての持ち物は 6.快適な見学のために にて紹介する。

9/5 21:00頃就寝(いつもながら早い・笑)

9/6 1:00
緊張して目が覚める。クルマはまだ手配できない。寝に戻る。

9/6 2:00
緊張してまた目が覚める。やはりクルマはまだ手配できない。寝に戻る。

9/6 4:30
目覚ましで目が覚める。
なんとクルマが空いている! 大急ぎで手配!! やった〜!!!

宿は手配できていないものの、最悪の場合は車中で過ごすことを想定して、身支度を調えて羽田空港に向かう。

9/6 15:30
種子島空港到着。クルマは軽バンで後部座席がフラットになるタイプだったので、薄いマットと寝袋を持ってきていたので車中泊すること決定。

車中泊場所は、中種子町自然リクリエーションにすることに。ロケット打ち上げ場にも近く、海も目の前で、広いし、キレイだし、徒歩圏に温泉があるのも最高!
車中泊料金は500円。ちなみに温泉は400円(石けん類無し)。

暗くなる前に打ち上げを見られる場所の下見に行くことにした。ロケット打ち上げ見学上一覧はこちら

まずはよくテレビで大勢の人が歓声を送ってます的な展望台、恵美之江展望公園(えびのえてんぼうだい)

なるほど、海越しに見える発射場がとてもカッコイイし、すぐそこでは無いもののここから見たらさぞや迫力があるだろう。しかし事前抽選は当初の打ち上げ5月前に終わっているし、公園は17:00で立ち入り禁止になるしもちろん前日からの車中泊も不可。どうわめいてもここから見ることはできない。

次に、長谷公園に行ってみた。見学施設としては一番大きいのと、発射台に向かって緩やかな傾斜があってとても見やすそうなので、明日はここに来ることに決定。

最後にロケットの丘へ。打ち上げ当日は発射台から半径3kmは立ち入り禁止になるのでここは閉鎖されるが、直線距離で約2km。18時から機体移動というロケットが格納庫から発射台に運ばれるとのことで見に来てみたら同志が大勢。

時間になるとH2Aロケットが姿を現し、ゆっくりゆっくり約30分、人の歩み寄りもゆっくりした速度で向かう姿はまさに威風堂々。じんわり感動。。機体にはH2A 47の文字が。H2A型は50号まで予定されているらしいので残りわずかだ。

ロケットが発射台に着くのを見届けた後で、スーパーで夕食やビールを買い込みキャンプ場へ。歩いて温泉に行き、海にほど近い東屋(屋根のあるテーブルとベンチ)でプシュッとカンパイし、晩ごはん。

それにしても明日の天気予報が気になる。実はこの時台風13号が発生していたし(翌日帰りの飛行機は揺れに揺れた)、打ち上げ時間の風速予報は10m/sとなっている。打ち上げは瞬間最大風速20m/s以下がルールらしい。

しかし考えていても天気は変わらない。「いや〜。。ホントに来ちゃったよ、種子島。明日楽しみだな〜!」としみじみと何度も実感しながら就寝。

9/7 5:30
平日の打ち上げではあるものの、混み具合など一切分からないけど早く行くのに越したことはないので早めにに出発。長谷公園に行ってみると思ったほどは混雑もしておらず、公園最前列中央に場所を確保することができた。

場所を確保した後、再びクルマをコンビニまで走らせてコーヒーと朝食を購入。ついでにもう一カ所の宇宙が丘公園からの景色を見に行ってみた。長谷公園で会った外国の人が「僕は宇宙が丘公園に行くことにするよ」と言っていたので気になったのだ。

宇宙が丘公園は他の観察場所に比べると小規模ながら、打ち上げ上の見える角度が長谷公園とも違う。確度的にはこちらの方がいいのかもしれないけど、直線距離で近いのは長谷公園らしいし、最前列も確保できているので、再び長谷公園に向かう。

やはり平日、しかも夏休み後なのでだいぶ人手は少ないように見える。マスコミも各社いるし、僕のように打ち上げを一度は見たいという人も、何度か見たという人もいる。地元の農家のおばちゃんもいれば、工事用作業服を着ている人もいる。幼稚園児や小学生と保護者もいる。賑やかでワクワクする空気感でいっぱいだ。

9/7 8:42
H2A 47号機 発射

天下の炎が見えたかと思うとロケットが動き出し、ぐいぐい上昇。打ち上げ場所から見学地までは約5kmあるので約15数秒後に聞いたことのないもの凄い音が届く。機体はあっという間に肉眼では見えない高度に上がり、双眼鏡を使うと補助エンジン切り離しが成功したことが分かる。

空にはロケットロードと呼ばれる雲が残り、龍のようにしばらく中空に残る。すでに視界から消えたロケットが、確かに飛び出していった形跡になる。

この感動をどう表現すれば良いのだろう。。

集合意識という言葉がある。これは、その場に集まった人たちが持つ意識によって作られる感情フィールドのことだ。
例えば、都会の満員電車の集合意識を想像してみて欲しい。殺伐としたイライラ感が容易に浮かぶだろう。その雰囲気や空気感は誰もが嫌がるし、ネガティブな気持ちになるだろう。
では神社はどうか。誰もが願い事に来たり、御礼を伝えに来る。静かな気持ちで神さまに祈る。神社の境内で凜とした雰囲気を感じ、気の良さを感じるのはこのためだ。

ロケット打ち上げ見学場は、この場の集合意識が今まで経験した何よりも素晴らしかった。誰もが打ち上げの成功を祈り、見つめ、声援を送り、拍手を送る。一緒にカウントダウンをして集合意識の密度をさらに高め、人類の技術の叡智が詰まった飛翔体が重力に反して宇宙空間に飛び出していくのを目の当たりにする。これはまた来たくなる!

快適な見学のために

実際のロケット見学をしてみて、あると良いものをまとめてみる。

双眼鏡
何せ見学上から機体までは5km離れているのでこれは必須だ。できればコンサート用の簡易的な物ではなく、倍率が高く明るいものがよく見える。

イス
打ち上げ自体は30秒〜1分程度だとしても、それまでの時間は待つことになるので、地べたに座っているのは辛い。キャンプ用のイスがあると理想的だ。僕は今回キャンプ場に泊まったので、そこでしっかりしたイスをなんと1日50円で借りることができた。

日よけ、帽子、サングラス
今回は夏の打ち上げで朝の時間だったので、日の出後真っ正面からの直射日光がなかなかキツかった。日よけとしての折りたたみ傘と、帽子とサングラスはあった方がいい。言うまでも無く傘は後ろの人の邪魔になるので、一言「打ち上げの時にはたたみますので」と言っておくとスムーズ。

発泡スチロール
今回キャンプ場での車中泊で、さすがにクーラーボックスは持っていけなかったけど、冷たいビールは欠かせない。島に数軒あるスーパーでおばちゃんに聞いたら「裏にあるの好きに持っていっていいよ」とのことだったので、氷を買って保冷バッチリ。食べ残してしまったお稲荷さんも保冷キープ。

かかった費用

最後に今回かかった費用をまとめる。
羽田⇔鹿児島:特典航空券なので空港使用料約1,500円のみ。
鹿児島⇔種子島:約32,000円
レンタカー:約8,500円(ガソリン含)
キャンプ場:500円
その他飲食や細々したものを含めると約4万5千円程度だろうか。特典航空券さえあれば、この値段で見に行けるというのは、振り返ってみるとお得な気がする。

まとめ

・打ち上げ情報をいかに入手するか。JAXA系のX(Twitter)や、打ち上げマニアを探してフォローしておくのがいいだろう。僕も今後情報が入り次第発信していくつもりだ(https://twitter.com/yutaka3110

・個人的には、ロケット打ち上げに関しては変更可能なフライトを手配するのが精神的にも安心で良いと思う。今回のように特典航空券が使えればコストもグッと抑えられるのでANAでマイルを貯めておくことを勧める(JALは変更不可のため)

・まずは行ってみよう
今回僕はすぐに「行く!」と決めた。確かに行ったからといって打ち上がる保証は無い。天気や機材の故障だってよく起こる。
けど、行かないことには絶対に見られない。単純なことだ。
今回はじめての見学で、わずか島滞在20時間で見られたのは幸運だったと思う。もし今回打ち上げられなかったら後悔するかと聞かれたら、全くしない。

なぜなら、ロケット仲間ができたからだ。今回出会った一人は頻繁に打ち上げを見に来ていて、種子島の人とも繋がっているので、いろんな情報が入ってくるらしい。もう一人はJAXAが大好きなので、なんでもいいので屋久島のJAXAで仕事を探します!とすでに動いている。

すでにLINEで繋がって宇宙話で盛り上がっているので、また再会できる楽しみがあるし、情報交換もできる。これだけでも来た甲斐があったと言える。

ということで、弾丸ロケット打ち上げ見学の裏側全てを書いてみました。人生で一度は生で見たい!という方のヒントになればこれ以上嬉しいことはありません。長文にお付き合い頂きありがとうございました。


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