債権者集会

倒産した出版社から未払い印税を回収した話(4)

 F書房の倒産処理は、弁護士が債権者と話し合い、弁済金額を減らしていく方式で、「任意整理」とか「私的整理」と言われる。一方、会社更生法や民事再生法などの規定に基づき、裁判所が監督しつつ倒産処理を進めるのが「法的整理」だ。

 任意整理は裁判所が関与しないため、迅速かつ柔軟な倒産処理が行える反面、不正や不公平が発生しやすい。F書房の債権者集会でも、そのような一面が見られた。

 F書房の弁護士が債権者に「委任状」を配り、自分たちへ提出するよう求めたのである。その「委任状」には、「当社は、弁護士○○氏を代理人として左記事項を委任致します」「F書房の債権を回収および資産を処分し、(中略)債権者に対して配当をなす一切の件」などと記載されている。

委任状

 ここで登場する「弁護士○○氏」は債務者のF書房(およびT社長)の代理人だ。債務者の利害を考え、活動しなければならない。それが債権者の代理人も兼ねようというのである。債務者と債権者は利害が対立するから、双方の代理人を務めることなど不可能だ。

 このような行為は「双方代理」と言い、民法や弁護士法で禁止されている。もっとも、これに違反し、弁護士会から懲戒処分を受ける弁護士も珍しくない。

 双方代理の弁護士は、報酬が多いほうの依頼者の利害で活動する。仮に、F書房の弁護士が私の代理人も務めたとして、どちらの利害を優先するかは明らかである。

 債権者集会で、ある債権者の代理人の弁護士が私の隣に座っていた。彼は「委任状」を見ると、「これは双方代理だから、マズいよなあ」とつぶやいた。私は思わず横を向いて、「そうですよねえ」とうなずいた。

 何の波紋もなく、債権者集会は1時間30分ほどで終わった。私は「委任状」を提出せず、双方代理の証拠として持ち帰った。

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