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ラポール8:助けたいという気持ちの本質

木之下:前回の講義の復習です。「助けたい」という気持ちは、相手との心理的距離を縮め、巻き込まれやすくなる要因となることがわかりました。
今回の講義で、「助けたくなる心理」をより浮き彫りにします。

「助けたい」という具体的な事例を2回に分けて検討します。
橘、円山:始めてください。

木之下:まずは、日常でみられる事例から紹介しましょう。

少しリアルにするために、男女のキャラクターに名前をつけています。男性は、健二さん、女性は、真美さん(仮名)と名付けました。
健二さんは、スリムでのっぽで、痩せ型の青年。家庭と仕事の悩みを抱えて疲れ切っています。健二さんは、いつも栄養失調気味です。
真美さんは、健二さんより2つ年下の心やさしい性格の女性です。

2人は、同じ総務課で勤務していました。
ある春の日の朝、健二さんは、体を曲げてうずくまっていました。気分が悪いと察した真美さんは、健二さんに体の具合をたずねました。
「最近、食事がのどを通らなくて…」と、健二さんは作り笑顔でこたえました。真美さんは他の職員に状況を知らせました。様子をみた上司は、「しっかり休んで栄養をとるように」と、健二さんを早退させました。

同じ日の夕方、やさしい真美さんは、健二さんのアパートを訪ねました。やわらかくて食べやすい軽食を抱えていました。真美さんを招き入れた健二さんは、「ありがとう!」と、他の人には見せない自然な笑顔を真美さんに示しました。
それから後、真美さんは、週に2回ほど、お弁当を持参していくようになりました。その頻度はしだいに増して、毎日のように行き来するようになりました。真美さんは、「私がいないと、この人は死んでしまう」と思ったそうです。

★さて、ここまでの話を聞いて、どう思いましたか?

:ドラマの始まりですね。
円山:真美さんは、やさしい子です。でも、それだけではないでしょう。健二さんに心ひかれているのでしょう。
木之下:そのように考えるのが自然ですね。真美さんが、健二さんのアパートを訪問する度に、会話があったはずです。始めは、ちょっとした挨拶かもしれませんが、足しげく通う内に、他の人には言わない深い話があったかもしれません。

円山:深い話…ですか?
木之下:そう。普通の人には言わないような、個人的な話。
円山:それは、どのような話でしょうか?
木之下:どんな話だと思いますか?
:あ、また、オウム返しの質問ですね。
木之下:そうです。想像ですから、自由に考えてみてください。

円山:たとえば、健二さんが病気であるなら、その内容を伝えたかもしれません。家庭の事情や生い立ちを詳らかに明かしたかもしれません。
木之下:大いにありうるでしょう。
このように公には言わないけど、特定の人だけが知っていることを何と言いますか?

円山:ひ・み・つ。秘密ですね。
木之下:思わせぶりな言い方が気になります。
助けたいという気持ちに「秘密」という要素が加わると、巻き込まれる引力が強くなります。
円山:感覚的にわかります。
木之下:人は、秘密に弱いのです。自分の秘密を明かすことは勇気が必要です。漏らすことのできない秘密を隠すことには、さらにエネルギーを使います。

★人が、お互いに秘密を知り合うと、どのような感情が起こると思いますか?

:秘密の共有による連帯感が強まります。心理的距離も近くなります。
木之下:そうですよね。他にも大切なことがあります。三時限目に、「人は相反する感情を持っている」という話をしました。アンビバレントです。覚えていますか?
:はい。思い出しました。人の感情は、反対方向に行きやすく、直角に曲がりにくい。
木之下:そうです。大好きは、大嫌いでもあるという心理です。

★では、秘密の共有による、負の意識は、どのようなものでしょうか?

:人に言えないもどかしさですね。
うーん、もうちょっといい言い方がありそう。
…「束縛」は、どうですか?
木之下:すばらしい!
巻き込まれた人は、気の重さや閉塞感を持つことがよくあります。
「束縛」は、まさにその感情を生み出す元になる因子です。
ここにも人の感情の両価性(アンビバレント)が現れています。

・知らないことに対する不安、興味 ↔ 知ることによる窮屈さ
・知ると、言いたくなる ↔ 言うと困った問題が起こる

円山:そう言えば、別の講義で聴きました。思春期から大人になっていく過程で、「秘密を共有すること」が起こると教わりました。
木之下:講義で、大切な話を聞いても感情や実感が伴わないと理解できませんね。
円山:はい。

木之下:「助けたい」と思う感情の大きな原動力の1つは、「秘密を知る」ということです。反対の側からいうと、弱みになる秘密を知られた場合には、さらに大きく巻き込まれます。

・悪いことをした場面をみられた
・人に知られたくない個人的な事情を知られてしまった
・よく見せていたことがウソだとばれた
などで起こります。

ところで、こうした感情に関連する一例として、君たちに気をつけてほしいパターンを紹介します。
円山:えっ?どんなことですか?
木之下:恋愛に関することです。端的に言いますね。

「人は、かげを持つ人に巻き込まれやすい」

その理由は、

・暗いかげがどこからきているのか気になる = 知らないことへの不安
・秘密を知ると、何かをしてあげたくなる = 知ることにより、具体的な援助方法を思いつく
・援助をすることにより感謝される = 自分の存在価値を実感する

:私は、しっかりしなさいとハッキリいうかも。
円山:私は、とまどうかもしれません。
木之下:世の中には、いろいろな落とし穴があります。気をつけてくださいね。
:落とし穴を見破ってそういうやつをこらしめてやりたい。
円山:私、大丈夫かしら。
木之下:人生わからないことだらけです。軌道修正すれば何とかなります。
次は、「助けたい」と気持ちがゆきすぎた事例を考察していきます。
橘、円山:よろしくお願いします。
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考察:「秘密を知る、知られる」ことは、巻き込まれる確率をさらに高める
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