夜に考え事をしてはいけない、というのはよく聞く話だと思う。これは夜の考え事の合間に読んでほしい文章だ。夜中のコーヒーは目が覚めてしまうから、温めた牛乳に蜂蜜でも溶かしながら、のんびりと。

夜はいつも、考え込む人に味方をしてくれない。どれだけ部屋を明るくしていても、窓の外はインクを流したように暗いから。長い一日を終えた身体が「いい加減にしてくれ」と声高に叫び始めるから。

考えなくて良いと言われたって、気になるものは気になってしまう。明日の予定とか、今日の睡眠時間とか、苦手なあの人のかわし方とか、厄介な仕事のこなし方とか。
じゃあ、その悩み事の中で特に気になる一つだけ選んでさ、それを君に任せるよ。残りは私が考えるとしよう。こう見えて考えるのは好きなんだよ。明日の朝には上手いこと対処できるようにしておくさ。
頭が疲れて眠くなってきたら御の字だし、考えて眠れないなら隣にいるからさ。

牛乳は少し冷めてきたかな。まだ熱くて飲めないか。じゃあもう少しだけ話そう。

暗闇はいつだって思考を後ろ向きにさせてしまう。明るい間は思いもしないようなことが、暗くなると簡単に頭に浮かんで消えなくなったりする。訳の分からない不安だとか、忘れたはずの痛みだとか、そういう色々が鍵をかけた抽斗から溢れ落ちてきたり。
そういう、溢れてきたものをちょっとこっちに持ってきてくれないかな。そうそう、重くのしかかってくる分を預けてほしいんだ。私の足元にお腹を空かせたバクがいて、暇さえあれば食べるものを探しているから、その痛いのとか辛いのとかを食べさせておくよ。私のバクは飼い主に似て食いしん坊だから、夢以外もよく食べたがる。だから安心して持ってきて。

さっきの牛乳は温くなってきたかな。
じゃあそれをゆっくり飲んで。身体が温まってきたら少し力が抜けると思うから。
もうそろそろバクが食事を終える頃だよ。痛みは薄れてきた？

それじゃあ、最後に私からのおまじない。
いたいのいたいの、とんでいけ。

おやすみ。

#眠れない夜に