雨上がりの工藤栄一、夜更けのレオス・カラックス

ひどい土砂降りに、雷鳴まで轟いた今日の夕刻。
さいわい夜には雨はあがったので外に出てみると、雨に濡れたアスファルトと水たまりのむこうで、叡山電車の踏切が赤く点滅していた。
アスファルトが、裏通りの街灯を反射している。
ぼくは、その風景を見て「あ、工藤栄一だ」と思った。

雨ににじんだアスファルトが湛える切なさは、そのまま工藤栄一の映画の世界のようでもある。
『ヨコハマBJブルース』でも『野獣刑事』でも、雨に黒光りするアスファルトは尋常ではない存在感を放っていた。テレビの『必殺シリーズ』が「光と影の美学」をお茶の間に炸裂させることができたのも、工藤栄一(と京都映画のスタッフたち)の功績だろう。

おなじように、夜更けの街をひとりで歩いていると、「あ、この感じは『ボーイ・ミーツ・ガール』みたいだ」とよく思う。
レオス・カラックス監督のデビュー作、『ボーイ・ミーツ・ガール』のなかでは、主人公のドニ・ラヴァンが、深夜の街をカフェインかなにかのアンプルを飲みながら、ひたすら彷徨っていた記憶がある。
ぼくは17歳かそこらのときに、この映画を見たはずだが、それから30年経ったいまでも、当時の映画から受けとった感触は、からだが覚えている。
ほら、まるで孤独に夜に溶けこむような、あの感じだよ。

ただ夜の街を歩くだけで、別世界へのトリップが楽しめる。
これはいままで観てきた映画のおかげかもしれない。

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