発想の転換?
体力が満タンにならないのは仕方ない。でもせめて、状態異常はやめてほしいな、と思う。
「最近ぜんそくがひどいし今朝は気圧で世界が重いし、親知らず抜いたのに奥歯が痛い気がするし、ほんとこの体のメンテ大変すぎ」
いつもどおり近くのコンビニで買ってきたお弁当を開けながら、YouTubeを操作する夫に愚痴る。いつも体の不調を訴えてばかりで悪いなとは思うけど、今日は特にしんどかった。こんなにいい天気なのに。
「そうねえ」と返す夫もまた、万年体調不良マン。
ラジオ体操をすれば全身から人としてありえない音がするし、少し前は何か食べると歯茎からだらだら血を流していた。(休日を除いて)朝はふたりしてゾンビのような声を上げている。
「そんな時は、ほら。これで元気出して」
夫はそう言って、私が飲んでいたヨーグルトを手に取る。
「はい、これで足りない栄養取れるよ」
と手渡されたのは、夫が飲んでいたトロピカーナエッセンシャルズに付いていた「1日不足分の栄養入り!」シールが貼られたヨーグルト。
一瞬ぽかんとして、なんだか急にどうでもよくなって、笑ってしまった。
夫は、私を元気にするのがとっても上手だ。
***
以前も同じようなことがあった。
私が、特定の女友達にマウントを取るのがやめられなくて、もだもだしていた時だ。何もいいことなんかないのに、つい彼女のSNSを見に行ってしまう私に、夫はゲームの手を止めずに聞いてきた。
「今、ハースのランクいくつになったんだっけ」
「? 12だけど……」
「始めた頃よりずいぶん強くなったじゃん。それに引き換え、(友人)ちゃんはランク圏外でしょ。比べるまでもないよ」
ハースというのは、私がその頃ハマっていたデジタルカードゲーム「ハースストーン」のことだ。
バトルを繰り返し勝利を重ねることで、ランクを上げていく。私自身カードゲームの経験はなかったが、プレイしている夫が楽しそうだったので私もダウンロード。デート中の待ち時間にお互い殴ったり殴られたりのバトルをして楽しんでいた。険悪になることの方が多かったけど。
そして件の彼女の名誉のために言っておくが、(おそらく)彼女はハースどころかカードゲームなんて全くしていない。つまりその意味では、私と彼女は全く違うフィールドにいる。
「そんでもって君の旦那はレジェンドだぞ。誇れ」
胸を張る夫を見ているうちに、それまで私の中にあった「彼女に勝ちたい」という気持ちはどこかに行っていた。冷静に考えると何の解決にもなっていない気もするが、「比べても仕方ない」「自分にも勝っている部分はある」ということを伝えたかったんだと思う。たぶん。
ちなみにハースストーンではランクは25から1まで、そしてその上に”レジェンド”がある。ハースストーン公式の統計では、レジェンド到達者が占める割合は全プレイヤーの0.5%だとか。うちの夫、どうやら強いらしい。
そしてこうも思った。
女子力だとか丁寧な暮らしだとかライフスタイルだとか、そんな目に見えない尺度じゃなくて、はっきり勝敗がつくゲームの世界っていいな、と。
***
体が不調だと気持ちも落ち込んでしまう。そして人間って思っているより単純だから、視覚情報とか思い込みによって簡単に騙されてしまうのだ。良くも悪くも。
もちろん元気でいるのに越したことはないけど、病は気からだし心の持ちようで見え方は変わる。
もよんとした私をいつも元気付けてくれる夫には本当に感謝しているし、私もお返しができたらいいなと思った。
そんな午後。
そうきっと、爆死すると思っていると引けるものも引けない。
星4は!きっと来る!
引けええええええええええ!!!
(虹が……見たいな……)
おわり。
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