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大貫妙子「Grey Skies」(1976)

シティポップが世界的に注目されている中、大貫妙子の作品ではセカンドの「SUNSHOWER」、サードの「MIGNONNE」が名盤として語られることが多いのですが、今回ご紹介する彼女のデビューアルバムは、その陰に隠れちゃっているイメージが私にはありました。実際それほど聴き込んでもいませんでしたし。
でもこのアルバムも素晴らしい内容であることを最近改めて認識した次第です。内容的にはシュガーベイブの延長線上にありながらも、当時の大貫妙子が持つ世界観を、アレンジャーの山下達郎細野晴臣坂本龍一等がうまく引き出したという感じでしょうか。

1976年、シュガーベイブはバンドの新年ミーティング上で、達郎さんからメンバーに「ドラムのユカリ(上原裕)が辞める。代わりのドラマーがいないので解散する」と伝えられ、4月のコンサートで解散。当時はシュガーベイブの音楽は評価されず、経済的理由から達郎さんもバンドを維持していくことを断念したのではないでしょうか。その後、メンバーだった大貫妙子は6月から本作のレコ―ディングを開始。シュガーベイブのメンバーだった山下達郎、寺尾次郎上原裕もレコ―ディングに参加しておりますので、サウンドはシュガーベイブの延長線上にある…ということですね。ちなみに山下達郎はこの後、8月に渡米し、自身のソロアルバムの制作に着手します。でもその達郎さんもアルバム「Go Ahead」までの3年間、全く売れない時期が続くこととなります。大貫さんの方が先に商業的には成功していったということですね。

本作は全曲作詞作曲:大貫妙子、アレンジを曲によって分けております。
オープニングのまるでシュガーベイブのような①「時の始まり」はこの時代の大貫妙子流ポップスですね。
wikiには「フィフス・アベニュー・バンドが持っていたような、シャッフルの気持ち良さの感じで作られた曲」とありますが、私も同様なことを考えてました。
リズムとブラスアレンジは山下達郎。間奏のトロンボーンソロはジャズミュージシャンの向井滋春。このソロが実に心地いいんですよね。きっと達郎さんのアイデアでしょうね。斉藤ノブのパーカッションも効果的だし、大貫妙子自身のふくよかなコーラスも素敵です。デビューアルバムのオープニングにピッタリだし、ニューミュージックの先駆けのようなナンバーだと思います。

鬼才、細野晴臣がアレンジを手掛けた③「One's Love」。
3拍子のジャズタッチな楽曲。大貫さん曰く「ベン・シドランから影響を受けた」とのこと。いや~、ベン・シドランはもっと難解だと思うなあ。大貫さんのベースはやっぱりポップスなので、ジャズタッチなアレンジでも聴きやすい。

シュガーベイブ時代から演奏していた⑤「愛は幻」はバンドの力強さを感じさせます。リズム・アレンジは山下達郎。
イントロのジェット音からの上原裕のグルーヴィーなフィルイン。センチメンタル・ロマンスの中野督夫のリードギターが鳴り響く辺りから、演奏はスリリングな展開となってきます。聴き所はエンディングの中野さんのリード・ギターと坂本龍一のピアノ・ソロの掛け合いでしょうか。リードギターの後ろで鳴り響く達郎さんのリズムギターもいいですね~。

B面も最初から素晴らしいナンバーが置かれております。それが坂本龍一がアレンジした⑥「Wander Lust」。
この曲も大好きなんですよね~。いわゆるキメが随所に決まっている16ビートナンバー。演奏もどこかフュージョン・タッチ。坂本教授のピアノ・ソロが軽快でグルーヴィー。そこに山下達郎のリズムギター&ソロが絡んでくるところなんか、実にスリリングです。リズム隊はシュガーベイブの2人。ここでの上原裕のプレイは名演!

ソフト・ボッサの⑦「」。これも地味ながらも好きなんですよね~。
想像通り、こちらのアレンジは細野晴臣(と大貫妙子)。ここでのクラシック・ギターは細野さんのプレイ。リズム隊はベースは田中章弘、ドラムは林立夫、パーカッションは浜口茂外也の職人芸。優しいフェンダーローズは佐藤博。コーラスは山下達郎&大貫妙子。心地よいナンバーです。

このアルバム、最後のエッジの効いた2曲が聴き所と捉える方も多いかと思います。矢野誠がアレンジを手掛け、矢野自身が演奏している琴をフューチャーした⑨「When I Met The Grey Sky」、坂本龍一がアレンジしたスペーシーなインストの⑩「Breakin' Blue」…、これらも大好きですが、この時代はやっぱり大貫さんの持ち味だった軽快なポップスのナンバーの方がお気に入りです。

このアルバムはジョニ・ミッチェルやユーミンからの影響が窺えますが、彼女等に負けず劣らず、大貫妙子は既にデビュー当時から独自の世界観を持っていたアーチストで、その後のサウンドの変遷も独自路線を歩んでおりますね。

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