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100年前の貴方に恋した No.6

                           著:小松 郁

6.

 彼女は元気に誕生した。

 その肌の温もりは遠い昔、ほんとに遠い昔の事のように思えた。

 私はしばらくの間何も声はかけられないでいた。
彼女はオギャーと泣いてミルクをねだっているようだ。

 私は慣れない手つきで看護師からほ乳瓶を受け取るとそれを口にもっていった。

 「ほら、パパだよ・・・。」

 彼女はほ乳瓶を口にくわえると夢中になって吸っているようで、まだ声もよく聞こえていないのだろうと思った。

 「2度目の人生は上手く生きて下さいね。」

 私は驚愕の思いと底知れぬ愛情を持って笑顔を浮かべた。
そして彼女がほ乳瓶を口から離して少しぐずってきたので優しく彼女を看護師さんに手渡した。

 これで良いのだろう・・・。

 私はとある決心を固めていた。

 研究を全て人に引き継ぎ彼女のためだけに生きる事。

 ずっと一緒に彼女だけのために生きる事。
 
 ふう、長かったなあ・・・。
本当に長かった・・・。

 でもこれからかな?

 私は彼女がどんどん成長して行く事を楽しみにしていた。
私はもう日陰者として生きるが彼女はそんな私をどこまでも太陽のように照らしていて欲しい。

 儚い願いの元に私のエゴの元に誕生した命。
だからその償いに私は残りの人生全てを彼女のために捧げようと思っていた。

 それから数年・・・。


 私はこの遠いアフリカの地を離れることがようやく出来ることになっていた。

相棒のロバートの方はここでまだまだ遺伝子最先端医療拠点としての整備を行なってきたいようだ。

 彼は「ショウありがとうよ、俺にチャンスをくれて。」と言ってくれた。

 私も「ロバート、君が居なければ私のプロジェクトは暗雲に乗り上げていたよ。
だからお互い様だ。」と答えた。

 「そんなにお姫様のことが大切か?」

 ロバートは冗談交じりに言う。

 「ああそうだな。私にとってこのお姫様が人生の全てだ。」

 そう言うとロバートは両手を挙げて呆れた顔をした。

 彼女はすくすくと成長して3才になった今ではちゃんと言葉話せる様になっている。

 「パパ、パパ・・・。」

 彼女は何かというと私を呼ぶようになっていた。
私は彼女が何不自由なく暮らせるように研究の特許なども売り飛ばす準備をして、いざ日本で数年後背の育成をやった後に研究生活からは開放される予定だ。

 「じゃあなロバート!」

 「ああ、いつかまたいつか一緒にシャンパンでも飲もうぜ。」

 私はその言葉と共にこのアフリカの地を飛び立った。
3才になる彼女は写真の面影が徐々に出てきている。

 彼女を抱っこしながら飛行機に乗り込むと私たちはアフリカを飛び立った。

 彼女は初めての飛行機で少し気分が悪いようだ。
アフリカから日本までは結構時間がかかる。

 私は一応ビジネスクラスのチケットを手配したが彼女が気分が悪くならないかは少し不安だ。

 ただ彼女は私の目を見つめて「パパ、パパ、ひこうき!」と少しはしゃいでいる。

 「ああ飛行機だよ。知果恵さん。
ほら雲が下に見えるね。」

 彼女はすごく不思議そうな顔をしている。

 「くも、おそら!」

 そうやって喜びを表している。

 「うん、私たちは今お空の上にいるんですよ。
知果恵さんは天使みたいですね。」

 「てんしさんてんしさん!いるの!?」

 と彼女ははしゃいでいる。

 私は彼女にどこまでも彼女に付き合い疲れて眠るまでずっと話し相手をしていた。

 彼女の身の回りの世話は今までスタッフがやってきてくれたがこれからは全て私が面倒を見なければいけない。

  私は嬉しさの中でいつの日にか彼女が新たな人生に巣立っていく日々を遠いことのように感じていた。
 

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