『贋作』/パトリシア・ハイスミス #読書 #感想文
随分と前に読んだ『太陽がいっぱい』の続編をまだ読んでいな事に気づいて今作を購入。
ーーー前作で詐欺師まがいの男でしかなかった男、トム・リプリーは大富豪グリーンリーフの息子、ディッキー・グリーンリーフを殺害し彼の遺産受け取る事に成功する。その6年後リプリーが一枚噛んでいるある作家の贋作販売を巡って起こるトラブルの解決に奔走する様が描かれる。
今作では資産家の娘と結婚し義父からの送金とディッキーの遺産で悠々自適にフランスの田舎で暮らすリプリーの家から物語が始まる。成り上がったリプリーが贋作に関わる事件に巻き込まれていく過程で彼の贋作に対する思い、自身も贋作であり、また贋作を描き続ける画家への賛辞と冷徹な迄の観察対象としての描写がされている。そもそもリプリーは犯罪によって凡庸な存在から変質した男である。それが故に贋作者として贋作対象の絵の技法が上達し、自身の絵が描けなくなる程に境界を失い情緒不安定になる画家の変質は格好の的だ。彼にとって犯罪を通して変質することは自由になることと同義なのだ。だからこそ画家が変質する事を望みその行く末を追いかける。
話の大枠として前述の通り、あくまでピカレスク小説なので殺人にトリックとかはなく証拠隠滅方法は雑、時代背景が電話の交換技師がいるくらい、およそ一九〇〇年代前半?なので科学的捜査が無いというのもあるが読んでいてそっちの方がドキドキする。
まだリプリーシリーズは2作目なのでこの後の話で彼がどのように悪事を重ねそれを乗り越え堂々と今の生活を続けていくのが、それを楽しみに続刊を読んで行きたいと思う。
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