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3月の読書 | 懐かしさに救われる

3度の飯より、本が好きである。というのは大袈裟だけれど。同じくらい好きである。本を読むことは、わたしにとって心の食事だ。本はいつ何時でもわたしを外の世界へ連れて行ってくれる。それはわたしにとって、ある種の旅である。読書記録はつまり、旅の記録でもあるのだ。

高校3年生のころ、担任の先生が毎月読書記録を共有してくれた。国語の担当の先生で、受験勉強中も、読書は勉強のうちだから、と読書を勧めてくれた。高校3年生のあの時期に、本はわたしをいろんな場所に連れて行ってくれて、広い世界へでる勇気をくれた。大学生になったら、わたしも読書記録を作ろう、と思いながら、時が経ち、今になってしまった。続くか分からないけれど、これを機に書いてみたいと思う。

▼私と街たち(ほぼ自伝)/吉本ばなな

とにかく身の回りを取り巻くものだけで情報量が多すぎるほど多い。ネットを見ているひまもないほどだ。そしてそこにはちゃんと宇宙がある。

私と街たち/吉本ばなな

大好きな吉本ばななさんの自伝に近いようなエッセイなのだけれど、そのなかの「ほんとうの地図」という章が好きだ。幼い頃は家の中や、徒歩3分圏内の公園までの道だけでも地図が描けた。Googlemapがなくても、頭の中には、何時ごろ、どこに、どんな、温かさや花や、においがあるか、人が通るか、そういうことをちゃんと知っていた。日々、アップデートされていて、いつだって自分の心の中にほんとうの地図があった。

抜粋した文章のなかの「そしてそこにはちゃんと宇宙がある」という文字を読んだとき、ハッとした。いつだって、わたしの周りにはちゃんと宇宙がある。インターネットで遠い場所を検索して調べる暇もないほど、家の中や街の中、日々の生活にはとめどない量の情報がある。

わたしは旅が好きだから、どこかへ行ったり、移動をしていないとなんだか不安になることがある。じっと家の中にいると、取り残されてしまったような気持ちになることがある。でもそれはやめてもいい気持ちなのかもしれない。旅へ出る者の心得として、まずは今ここで地図を描くことができなければならないような、そんな気がした。

▼ミトンとふびん/吉本ばなな

「愛は戦いじゃないよ。愛は奪うものでもない。そこにあるものだよ。」

ミトンとふびん -情け嶋-/吉本ばなな

とにかく装丁の美しくしさに惹かれて、手に取った。よりさりげなく。より軽く。しかしよりたくさんの涙と血を流して。というばななさんの言葉にどきりとした。人生の本質を突いたような言葉の数々を綴るばななさんの本が本当に大好きだ。

人はたくさんの想いを抱えながら、それでいてまっすぐに。人生のよろこびが丁寧に描かれた短編集だった。とくに、「情け嶋」を何度も読み返した。主人公のアソコちゃん(通称)が言った一言に、すっと軽い気持ちになった。わたしは愛に自由でありたい。悲しい経験をしたアソコちゃんが愛をあきらめない話に、どこか自分の体験が重なる人も多いのではないかなと思う。

例えば、自分が暗闇に落ちていくとき、眉毛をへの字に曲げて本当に心配そうに見てくれるであろう人が何人か浮かぶ。大切にしなければならないのは、そういう人たちなのかもしれない。

▼傲慢と善良/辻村深月

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」

「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、“ピンとこない“と言います。ー私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段と釣り合わない」

傲慢と善良/辻村深月

辻村さんの本は、核心をついてくる。だから、読むには覚悟がいる。今回の本もなんとなく評判は聞いていたので、ドキドキしながらページを捲った。

「婚活」ということをテーマに、人生における選択の難しさや苦労が描かれていた、辛辣だけれど、確かに、いつも自分のすぐそこにあるような問題があって、誰もがきっと、自分のストーリーと重ね合わせて読んだのではないだろうか。内容はネタバレなしには書けないことが多いので割愛する。誰が読んでも、どこかに、誰かに、共感を得て、そして言葉が刺さり、痛い、と感じるようなそんな1冊なのではないかと思う。

あとがきは朝井リョウさんで、朝井さんはこの小説を「私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写することを主題としている」と表現していた。その通りだと思った。そんなことまで書かなくても…というくらい、小さな心の動きを文章であらわにしている。

地元の本屋さんで、高校時代からの親友と一緒にこの本を買った。読むには勇気がいることが分かっていたから、一緒に読もうということになった。途中途中で感想を言い合って、そうして読んだ1冊。そういう読書もいいなと思った。

▼希望の糸/東野圭吾

最近はエッセイを読むことも多くなったが、昔は専ら小説ばかり読んでいた。ミステリー小説が大好きだ。電車を乗り過ごしてしまうくらい、続きが気になって仕方ない。登場人物それぞれにストーリーがあって、殺人とか事件ばかりの話なのに、なぜか感動が最後にやってくる。そういう不思議なミステリー小説を書かれる東野さんの本が大好きである。今回の1冊は、家族の物語だった。誰もが、本当の家族を求めている。

好きな歌の中に家族を表現したある歌詞がある。

友達のようでいて 他人のように遠い

家族の風景/ハナレグミ

近いのに、遠い。いつも一緒にいるのに、全然知らない。特に親子にはそういうことがよくあることなのかもしれない。でも知りたいと思う。いつまでも思う。そういうものなのかもしれない。

▼今日の人生2/益田ミリ

住宅街、よそんちの夕飯の匂い
無意識に探してる懐かしさの正体

今日の人生2/益田ミリ

好きな作家さんのひとりが益田ミリさん。ささやなかな日常をさりげない言葉で、でも確かに語るミリさんの本はいつも穏やかで、疲れた時こそ読みたくなる。忘れたくないような日常が、記したり、誰かに話したりするには取るに足らないような日常が誰にでもきっとあって。そういうことをぎゅっと詰め込んでくれている1冊。今日の人生2では特にコロナ禍での話も描かれていた。

誰もが日常を懐かしく思った。その懐かしい気持ちにきっとどこかでみんな支えられてきた。それでも新しい日常と言われる日々がやってきて、日常などもうないことをどこかでうっすら感じていた。そして今は変わりゆくことを日常なのだと受け入れ始めている。この3年間で人々が経験した変化は、大変だったけれど、すごく重要な時間だったように思う。なぜなら、もう安全で安心な場所などどこにもないことが分かってしまったから。わたしたちはいつだって自分で日常を作っていかなければならない。優しい言葉と絵で、優しく、そして確かに、ミリさんが教えてくれたように思う。

今月はここまで。
常に手元に置きたい本ばかりだった。そういえば家の家具の位置も変えて、本棚を縁側に移動した。温かい風が吹き込む縁側での読書がはかどりそうだな。

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