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実例で見る、記事の内容を濃くする「取材」のすすめかた

記事を書くとき、どうしても「文章力」が取り上げられることが多い。

が、実は小説家でもない限り、読まれるかどうかは、文章力の有無と言うよりも、取材力の有無のほうが問題になる。

というのも、このマガジンのバックナンバーで繰り返し述べているように、読者にとっての重要性は、
文章の書き方 <<<<< 文章の内容 だからだ。


文章力は単純な技術であり、習得に特別な訓練と才能を必要とする。

ところが、文章の内容で読ませるための力である「取材力」は、文章力の向上に比べて、特別な訓練も才能も必要としない。
足を使うことで、誰にでもすぐにできることだ。

だから、下手に「文章力」に拘泥するほうが、良くない。


実際、webは最低限の読みやすさがあれば、内容が面白ければ、読者の獲得はさほど難しくない。
むしろ、下手に装飾的な文章を書くと、かえって素人くさく見えてしまう。

例えば、本田勝一が著書の中で「ヘドの出そうな文章」と評した文章が、以下だ。

只野小葉さん。当年五五歳になる家の前のおばさんである。このおばさん、ただのおばさんではない。ひとたびキャラバンシューズをはき、リュックを背負い、頭に登山帽をのせると、どうしてどうしてそんじょそこらの若者は足もとにも及ばない。このいでたちで日光周辺の山はことごとく踏破、尾瀬、白根、奥日光まで征服したというから驚く。

そして、この只野さんには同好の士が三、四人いるが、いずれも五十歳をはるかに過ぎた古き若者ばかりなのである。マイカーが普及し、とみに足の弱くなった今の若者らにとって学ぶべきところ大である。子どもたちがもう少し手がかからなくなったら弟子入りをして、彼女のように年齢とは逆に若々しい日々を過ごしたいと思っている昨今である。(『朝日新聞』一九七四年七月一五日朝刊「声」欄・人名は仮名)

本田勝一が言うように、この文章は素人が名文を書こうとして、失敗した典型的な例だろう。
「手あかのついた、紋切り型の表現が充満している」からと彼は言うが、要するに、必要ではない情報が多すぎるのだ。


例えば、この文章をweb風に、装飾を省いて書き直すと、以下のようになる。

私の家の前に住む只野小葉さんは、登山が得意なおばさんだ。
55歳という年齢だが、日光周辺のみならず、尾瀬、白根、奥日光などの、多くの山に登頂している。

只野さんには同年代の一緒に登山をする知人友人たちが3,4名おり、いずれの方も健脚で若々しい。
マイカーに依存している若者たちも見習うべきだろう。

私も子育てが終わったら、彼女の仲間に入りたいと思っている。

読者の方々にとっては、こちらのほうがはるかに読みやすいはずだ。
理由は単純で、以下のような、装飾的な表現をすべて取り払ったからだ。

「当年」
「ただのおばさんではない」
「ひとたび」
「そんじょそこらの」
「このいでたちで」
「ことごとく」
「同行の士」
「古き若者」
「とみに」
「昨今である」

なんとなく込み入った表現を使ったほうが「文章が書ける人」っぽいイメージがあるかもしれないが、実際にこうした装飾的な表現を使うのは非常に難しく、事実を淡々と並べたほうが、むしろ良い文章になる。


ただし、この文章が面白いか、と言われたら、残念ながら、分かりやすくはあるが、まったく面白みはない

なぜなら、内容がごく普通だからである。

自分の近所のおばさんが登山が得意で、自分も仲間に入りたい、という文章には、読者にとって有益な記事とは言えない。
朝日新聞がなぜこの投書を紙面に掲載しようと思ったのかはわからないが、ビューが取れる記事ではないのは確かだ。


取材で記事の中身を充実させる

では、どうやって文章を面白くすれば良いのか。
それは、「取材」によってである。

記事の「材料を取る」と書いて取材だが、本当は文章力などよりもはるかに取材力のほうが大事で、取材8割、執筆2割と考えてよい。


実際、ほとんどのwebライターにとって、取材のほうが、記事を書くことよりもはるかに時間がかかるし、文章の質を決定する要因となる。

ではどのように取材を進めるのか。


1.クライアントからの要望

下は、先日NECのメディアに寄稿した記事である。
本記事では、事例をもとに、記事作成の取材の進め方を解説する。


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