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【41】ライターを消耗させる「悪い客」5つの共通項。

コラムニストの小田嶋さんが怒っていた。
なんでも、大手出版社の編集が、ライターにセクハラ、さらに原稿料を踏み倒したとのこと。

死ぬこと以外かすりキス?

詳細はリンク先の記事の本文に譲るが、要するに大手出版社の社員編集者が、女性フリーライターにセクハラを仕掛けたあげくに、ボツにした原稿料を踏み倒したというお話だ。

ここまでのところで
「なるほど、よくある話だ」
と思ったあなたは、業界の現状をよく知っている事情通なのだろう。

しかしながら、この話を「よくある話」として聞き流してしまえる人間は、世間の常識から考えれば、非常識な人物でもある。

別の言い方をすれば、わたくしどもが暮らしているこの出版業界という場所は、世間のあたりまえな常識とは別の、狂ったスタンダードがまかり通っている、狂った世界だということだ。

私が、世間的にはずっと大きいニュースである黒川検事長の辞任問題よりも、この小さな出版界で起こったちっぽけで異様でケチくさくてみっともない下品な箕輪厚介氏の話題を今回のテーマに選んだのは、箕輪セクハラ案件の扱いが「あまりにも小さい」と思ったからだ。

もう少し丁寧な言い方で説明すれば、文春砲以外のメディアがこの事件を扱う態度が、あまりにもお座なりだったからこそ、私は、自分が微力ながら力を尽くして原稿を書かなければいけないと決意した次第なのである。

私はこの「箕輪」という編集者を、あまり知らないので、多くを語ることはできない。だが、文春の元ネタの記事を読むと、セクハラを行ったのは事実のようだ。


私は出版社の人間ではないし、マスメディアにも縁がない。
だが、小田嶋さんが指摘するように、これが「よくある話」だということは知っている。

なぜなら「優越的なポジションを乱用する輩」は、社会のあちこちに存在しており、全く珍しくないからだ。

そういう意味では、今話題となっているSNSの誹謗中傷も全く同じだ。
「やり返されない」場所から、暴力的に振る舞う人たちは、セクハラする輩と何も変わらない。


もちろん、これは別に出版とか、メディア業界に限らない。

コンサルタントだった時、女性コンサルタントが
「営業先の社長から言い寄られる」という話はそれなりにあった。

また社内でも、事務の女性アシスタントが、「コンサルタントからしつこく食事に誘われて困る」と言った話も耳にした。

ひどい目にあって、「クライアントワークは二度とやりたくない」という同僚もいた。

あるいは
「パワハラ担当者」
「約束を守らない輩」
「ミスを人になすりつけてくる人」
など、笑い話にもならない話は、それこそ本当にたくさんあった。

「ライター」の立場は極めて弱い

さて、冒頭の例が示すとおり、殆どの「ライター」も例外ではなく、弱い立場にある。
すなわち、上のような話の被害者になりやすい。

なぜかというと、ライターは参入障壁が低く、「なりたい人」が多いわりには、マネタイズが難しい世界だからだ。


ちなみに、ここで言う「ライター」は売文業を営みたい人であって、「ブロガー」や「インフルエンサー」とはことなる。

ブロガーは「儲からなくても良い」ひとたちだし、「インフルエンサー」は売文を目的としていない。


だがライターは違う。ライターは「1冊いくら」あるいは「1記事いくら」場合によっては「1文字いくら」と言う形で、文章を売らなければ生きていけない。

だがほとんどのライターは、「文章を売る」ことに長けていない
だから、立場が強いのは「出版社」「メディア」側だ。
彼らは「文章」をマネタイズする仕組みを持っているからだ。

「マーケット」に置いては、商品供給側よりも客を掴んでいるプレーヤーが最も強いので、客から指名が来るようなライターでない限り、立場は弱い。


中でも、冒頭の話にもある「原稿料の踏み倒し」は残念ながらよくある話だ。私も起業して間もない「ライター」として駆け出しだった頃、幾度か踏み倒しにあった。

起業して間もない頃は、小さな子供を抱えて、実績も仕事もなかった。
貯金だけがみるみる減っていく。そんな「実績がなく」「食うや食わずの」売り手は、足元を見られて食い物にされやすい。


例えば、ある会社から「ちょっと記事を書いてほしいです。報酬は◯◯くらいですが、構成案を書いてくれませんかね?」という依頼があった。

私は喜んで構成案を書いた。ヒアリングもした。
「いいですね!この構成案」とも言ってもらった。


ところが相手の言うことが2転、3転する。
「構成案、直してもらっていいですかね?」
と1週間おきくらいに言われる。

しかも、そのたびに要望が変わる。

「ターゲットは20代、30代の若手なんですけどね」から
「やっぱり第二新卒にしたいのですが」になり、
最後に「あ、転職希望者で」となった。

流石に私も憤慨して、「まってください、ターゲットをきちんと決めてから、変更の指示を頂けないでしょうか」というと、突然連絡が途絶えた。時間を返せ。


あるいは「PR記事を書いてくれ」と言われて、取材をした。
そこそこ有名な方だったので、私は喜んで記事を書き、その方から「OK」も出してもらった。

ところが、突然「公開はちょっとまってもらえないですか?来週まで。」という話が来た。

私は、拡散の準備でもしているのかな、と思って「わかりました」と返事をした。

ところが次の週になって言われたのは、
「すいません、ウチの広報からストップが出ちゃいまして。」
という一言だった。

「出ちゃいまして」じゃねーよ。金払え。


他にも、ある会社の役員から「取材記事を書いてほしい。」と言われたので
「正直な話でないと読まれませんよ。それでもいいですか?」
と聞いたところ、「もちろん」という話を頂いた事があった。

取材は大変おもしろく、業界の本当のところを語っていただいた。
「これはいい記事になる」と思った。

ところが、出来上がった原稿を彼に見せたところ、いきなり弱気になり、
「やっぱり、ちょっと強すぎる口調なので、柔らかく書いてもらえないでしょうか」と言われた。

もちろん私も大人だ。「ですよねー。」とか言って、ほぼまるごと、粛々と書き直した。
そこまではまあ、仕方ないかな、と思った。
お客さんの要望に応えるのは大事だ。

苦心して、話を柔らかく、批判もなくし、丸く収まるような文章を作った。

ところが、それを見て彼らは言った。
「やっぱり、記事を公開するのは辞めます」

そこまでは私も我慢できた。
「わかりました、仕方ないですよね。」

ところが彼らは「公開できない以上、カネは払えない」と言ってきた。
しまった騙された。


もちろん「安達が、仕事を選ばないから悪いんだろ」と言う方もいるだろう。全くそのとおりだ。

なので、私は「学習する」ことを迫られた。
「お客さんの見分け方」を。

「ライターを消耗させる客」とは

コンサルティング会社にいた頃、「カネを払わない」というお客さんは、まずいなかった。

実際、回収できなかった案件を見たのは、10年以上のキャリアの中で1、2度だけ。だから私は「依頼に応えれば、お客さんが金を払ってくれる」のは当然だと思っていた。

だが、今思えばそれは「会社」が与信管理をきっちりやってくれていたからであって、「カネを払わない輩」は、実際にはたくさんいる。


だから、大事なのは「客を見る目」だ。
要するに、ライターにとって、いわゆる「与信管理」はとてつもなく大事なのだ。

「どんな案件がヤバいか」
「どんな客がカネを払わないか」
「どんな客が後からゴネてくるか」

は、地味ながら、ライターとして生計を立てるには、必須の知識だった。


さて、ここからは具体的な話だ。

与信は必ずしも「大企業だから安心」というわけではない。
ライターを消耗させる客には、以下の共通項がある。


1.文字単価で報酬を決める

前にも書いたが、「文字単価」で報酬を決める客とは付き合うべきではない。

クラウドソーシングの「文字単価」という風習で追い詰められる、webライターたち。

例えば、文字単価の最大の問題点は、「文章が冗長になる」ことだ。
以下の文章を読んでどう思うだろうか。

”会社でよくある会議の議案は、次のようなものだ。
・会社の運営
・事業計画
・収支
いずれの議案も、会社の将来を左右する議案であり、逆にいえば社内会議では会社の未来を左右する議案しか話し合われないはず。
もう、読者諸兄にはおわかりだと思うが、社内会議の決定事項が会社の未来を左右する。
そのため、会議に参加する社員は、会社が良い方向へ進むためにはどうすればいいかを熟考し会議に臨まなければならない。”

こんな文章が、「文字単価」を意識してしまうと、ライターからあがってきてしまう。
それに対して、良いライターからは次のような文がくる。

”よくある議案は、以下のものだ。
・目標管理
・予算管理
いずれの議案も、会社の将来を左右する決定につながる。
参加者は、以上について熟考し、会議に臨まなければならない。”

本質的に、重複した表現は美しくないし、わかりにくい。
例外もあるが、同じことを伝えるなら、短い文章の方が良いのは当たり前だ。しかし「文字単価」のライターは、文章を短くできない。短くすれば、報酬が減るからだ。

よい文章は完結で読みやすい。が、ライターには文章を短くするメリットがないので、「文字単価」を要求されると、とにかく文章が冗長になる。

そこへ来て「文章は冗長でいいよ」という客は、要するに
「文章のクオリティに興味がない」と言える。

そういう客は要するに我々を「使い捨てライター」と思っている。付き合うべきではない。

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