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おいしいごはんが食べられますように(高瀬隼子著)を読んで


珍しく、本を読了してすぐに感想文を書くためにこうしてnoteに記している。

この間、彼と遠出をした時に出会った個人経営の本屋であり、古書店に行った際にGETした「おいしいごはんが食べられますように」。
ずっと前から気になっており、見つけて直ぐに購入した。
比較的、短いお話だったので、学校の行き帰りで読み切った。しかし、心がモヤモヤするというか、消化不良のようになってしまっているので、読み終わって何も見ない状態で書いている。

まず、全体の感想として。
「おいしいごはんを食べられますように」というタイトルからして、願いとか祈りのような物語なのではないだろうかと予想していた。ごはんを大切にしようというと大筋で進んで行くとすら思っていた。しかし、健康的な食事を好まず、カップ麺やゼリーなど手軽に食べれるものを選んで食べるという二谷という人物に重点を置いて進む印象を受けた。

自分の自由な時間を増やすために、食べる時間よりも多くの時間を使って自炊をしているのは時間がもったいない(大枠このような認識だったが正しいだろうか、)という論理自体はわかる。
でも、私は作る喜びであったり、手作りのあたたかさを知っている。その作り手の気持ちも含めて私は自炊が好きだ。
しかし、二谷は違う。自分の好きな人が作ってくれたごはんすらも得意じゃない。しかも、そのあたたかい自炊されたごはんをすすめてくる恋人のことが好きでは無いのに、それでもなお結婚という方向性を打診している。私は、一緒にいて楽で素が出せる相手と一緒にいたい。だからこそ、本当に戸惑ってしまった。

いくら自分の好きな部分を持つ相手だったとしても、致命的に合わない部分があれば、私は一緒にいることは選べないと思う。それほど私にとって食は大事だと思うが、二谷は食に重点を置かず選択するのだろうか。というより、周りに納得されるような結婚相手を見つけ、作中に描かれていた祖母に孫の顔を見せるために、自分を蔑ろに(そのような意識があるのかまでは分からないが)してなんとなくの人生を歩むのだろうか。食にかける思いのプラス的な側面は作中あまり印象に残らなかったが、マイナスの側面は大きすぎるほどだったとも思う。誰が作ったか分からないものの方が安心するというようなものだったり、手作りケーキを食べる人が分からないという価値観が多く表出していた。やはり、価値観が違いすぎると言うだけなのだろうか。

私は、本を読む上で、新しい価値観を自分に取り込んだり、共感することに重きを置いている節がある。この本を読んで、正直すごく近い価値観を持つ人はいなかったように思う。だから共感する対象は少なかった。特に、私は二谷の価値観は今までに全くない価値基準と、思考の持ち主で正直読み終わった今でもきちんとした理解ができたのかどうか考えあぐねている。自分にどうしても価値観を消化しきれない。そう言った意味では新しい価値観を大きく植え付けられた。

どこの職場にでもいるであろう、作中の芦川さんのような、「体調不良が多く、周りの人に配慮されている人」、その方を配慮する代わりに誰かが犠牲になって残業したり、穴を埋めようと努力する。
ハラスメントにうるさい世の中だし、それで過労死なんてことになったら会社としてもどうしようも出来ない。だからこそ、配慮する。でもその裏で必死にもがいている人もいる。
この構造、今の世の中の問題なのだろうなと思った。私のバイト先にもそういう人がいて、私がシフトの穴を埋めることも少なくはなかった。だから分かる。不公平だと思う。だけど、それを言ったらダメだと言う風潮は間違いなくあるよなぁと。
あとは、押尾さんの中途半端にできない性格には共感した。グループワークで私はやりたくなくても、何だかんだこなして、それなりのものを作ろうとしてしまう。それでグループのメンバーとの気持ちの差を感じて冷めたこともある。やるならちゃんとやりたいのだ。

1番この本で共感する点が多かったのは押尾さんだったけれど、だからといって嫌いな人に直接いじわるしてやろうとは思わない。私は職場では距離感に気を使っていて、表面上では上手くやりたいと思う。関われば嫌なこともあるけど、平和に過ごしたい。だから直接攻撃なんてもってのほかなのだ。いい意味では平和主義で、悪い意味では八方美人なのだろうなと私の価値観を客観的に思った。
そういった意味で、共感と反発の幅が大きかったのが押尾さんだった。

この本を読んで、共感という点においては、正直あまり出来なかったけれど、自分の価値観と向き合うきっかけにはなった。食への愛となぁなぁで人生の選択をしたくないという価値観。様々な価値観の人がいるし、それ自体否定するべきでもないし、尊重されるべきものだと思うけれど、せめて、大切な友達や家族や恋人と、おいしいものを共有したい、そんな思いは欲張りなんだろうか。そうでは無いと信じたい。

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