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ムーミン谷の冬


「この世界には、夏や秋や春にはくらす場所をもたないものが、いろいろといるのよ。みんな、とっても内気で、すこしかわりものなの。ある種の夜のけものとか、ほかの人たちとはうまくつきあっていけない人とか、だれもそんなものがいるなんて、思いもしない生きものとかね。その人たちは、一年じゅう、どこかにこっそりとかくれているの。そうして、あたりがひっそりとして、……たいていのものが冬のねむりにおちたときになると、やっとでてくるのよ」
トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』山室静 訳(講談社文庫)54p

ムーミン一家の人たちは、11月になり、あたりが寒くなってくると、松葉をおなかいっぱい食べて春まで冬眠してしまう。ところがなぜか、真冬、静まり返った家の中で、ムーミントロールはひとりだけ目を覚ます。パパもママもぐっすり眠って起きる気配がないので、ムーミンはたったひとりではじめて見る冬の世界に入っていく。明るく幸せな夏の世界しか知らないムーミンが、雪におおわれ、見知った生きものがほとんどいない、薄ぐらく親しみのない世界を探検するお話が『ムーミン谷の冬』。


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やがてムーミンは、「おしゃまさん」という存在に出会う。おしゃまさんは、冬のあいだムーミン谷の生き物たちを見守っている人で、ムーミン一家が夏の水遊びに使う海辺の小屋に住みついて、目にみえない小さなものたちの面倒をみたり、冬至の祭りの世話を焼いたりして、春までのあいだを静かに暮らしている。

そのおしゃまさんがムーミンに言ってきかせるのが冒頭の言葉だ。

ムーミンは、台所の流しの下に住んでいて出てこようとしない小さな生きものと仲良くなろうとするが、うまくいかない。おしゃまさんは、冬の生きものたちにはそれぞれのやり方があるんだから、一人でいたいものはほうっておくしかない、と言ってきかせる。

したいようにさせてあげること。
これは究極の愛だなあ、と思った。大人の愛だよ。

ムーミン谷の住人は、基本、他人に干渉しない。
みんながそれぞれに自分の好きなやり方で好きなことをしている。

お互いが少し離れて見まもり、意見は言っても強要はしないし、みな自分のやり方があることを知っているので、相手が自分の思うように動かなくても、あまり気にしない。みんな「自分軸」が立っている。

ムーミンの親友、スナフキンは、冬の生きものではないけれど、一人でいる時間が絶対に必要で、秋になると一人で長い旅に出てしまい、春まで帰って来ない。ムーミンはとてもさびしい気持ちになるけれど、スナフキンが一人で旅に出なければいけないこともよくわかっている。

ムーミントロール、体型は幼児型だけど、こころは大人なのだな。


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