見出し画像

班長のはなし 前編

町内会、
というものがある。
集合住宅の場合は
よくわからないが
戸建に住んでいると
区画ごとに
あるのだ。

その町内会の班長
というものを
今年やることとなった。
なってしまった。
まあこれは志願してやるわけではなく
一年毎に隣の家に
班長の仕事が移っていく
というもので
とうとう
私のところまで
回って来てしまった
といった塩梅だ。

とはいえ
この班長の仕事、
何をやるわけでもない。
まあいわゆる回覧板
というものを回すだけだ。
回覧板の内容物も
もっと上の町内会長から回ってくるので
それをファイリングして回す。
たったそれだけ。

まあまあ、
ついに回って来たとは言え
たったそれだけのことだ。
別にいいではないか。
そんなことを思っていた。

年度末といわれる
三月に前班長から言い渡され
私は若干の覚悟はしたものの
まあお気楽に構えていた。

その間にもライブやら何やら
いろいろとあり
その事自体を忘れかけていた
四月の頭。
町内会長と言われる人が
唐突に訪問して来た。

ピンポーン

インターホンが鳴り
誰だろうか、
と訝しげに、はい、
と返事をする。

「どうも、町内会の者です。4月からの班長の件で伺いました。」

…あ、
そうか。
今年だったな…。
忘れてたわ…。

ドアをガチャリと開ける。
爽やかな朝の空気の中に
町内会長と言われるおじいさんが
にこやかに立っていた。
その日はとても天気が良く
このおじいさんが
春を連れてやってきたのでは?
と錯覚するような
感覚さえあった。

「ああ、どうもです。よろしくお願いします。」
と返事をすると
淡々と語り出した町内会長。

「えー、まずですね、これ回覧板です…それから………………。」

話を聞いていくうちに
どんどんと暗くなってゆく私の気持ち。
そこにある
爽やかな春の気候のことなんて
一瞬でどこかへ消え去ってしまうほどに
私の頭は混乱していた。

つづく

この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?