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60歳からの古本屋開業 第4章 ロードマップ(2)書店名とロゴを決めるのだ

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ


とりあえず、整理してみた

 その日の打ち合わせ(前回参照)で決まったことは次の通り。

【部屋探し】
・ちょっとペンディング。面白いから本当はすぐにもやりたいけど。よい物件がないかは引き続きアンテナを張っておく。
 
【サイト構築】
・まずは、とにかく多くの人に見ていただけるサイトを作る。
・そのためのコンテンツを掲載していく。例えばこんなアイデアが出た。
「この三冊」を継続してアップ
「古書店の作り方 Live」の掲載(この文章のことです)
「ビートルズに関するコラムの連載」(赤羽氏の熱い希望)
「今夜も茶色めし」(私のこれまで作った食事写真とコメント)
「オーストラリア書店事情」(娘が滞在しているので送らせる)
 その他魅力的なコンテンツを探す。
・貸出スペース:アクセスが増えたところで考える。
・PRは、インスタ、ツイッター、FBを活用!

【本の販売】
・しばらくは、人の本を人のサイトで売る、その中継地点としての役割。
・自分で売る場合は、メルカリ、オークション(即決)にて販売 
・自分の書店を持つ場合、売り場はAmazonではなく、Yahooショッピングに持つ。
(理由)決済費用等無料。維持管理費、限りなく無料。

 まずは私たちのオリジナルサイトで商品紹介して、「ご購入はこちら」のリンク。これが現実的で合理的。
 店舗としてYahooショッピングを利用するためには、古物商の免許が必要だということも判明した。
 費用は19000円。免許自体の取得はそれほど難しくはない。管轄は、なんと警察。
「え? 故買商の管轄って警察なんですか」
「そうなんですよ。てか、故買商じゃなくて古物商。故買商って、盗品を扱う違法な古物商のことだから、警察に故買商の免許くださいって言ったら、その場で逮捕ですよ。ま、それは置いておいて、古物商の免許ですが、市町村とか通産省とかだと思っていたんですが、違うんですね。免許制度の目的は、盗品を売り買いされることへの監視。誰が売ったか買ったかがはっきりわかるようにするため。だから管轄は警察。申請すればすぐにとれるみたいですね」と赤羽氏。
「へー、勉強になりますね。でも知らない人から見れば、免許制度なんて言われたら、鮮魚市場や野菜市場に立ち入ることができる業者免許みたいな高い壁に感じてしまいますよね」
「そうなんですよ。調べてみて意外でした。しかしお金のかかることですから慎重に進めていきましょう」

さあ、書店名を決めよう!

 大切な話が終了したところで、場所をすかさず居酒屋に移し、会話はさらに続く。
 若いお姉ちゃんがきびきび働くお店で、最近の私たちのお気に入りである。
 若いお姉ちゃんがいようといまいと、お前たちには関係ないだろう! という意見もあるだろうが、いるだけで充分幸せなお年頃なのである。おやじ、なのである。
 つまみはお店自慢のから揚げとポテトサラダ、それにブリカマ、そしてコロッケ。
 相変わらず子供のような選択である。私はビール、赤羽氏は最初の一杯目からハイボールを注文する。
「そろそろ店名も決めたいですね」と私が切り出す。
「それです、それです」
「何がいいですかね。『三日月書房』とか、それ風の名前を付けますか?」
「うーん、それも悪くないですけど、せっかくだから自分たちが好きなものに関連した名前にしたいですね」
「好きなものと言えば!」
「ビートルズ!」「ビートルズ!」(ここ、ハモってます)
「ビートルズに関連した名前、いいですねー。何があるかなー」
「ビートル書房!」
「うーん、いくら何でもあからさますぎ!」
「曲でいきますか。レットイット書房」
「えー!? なんか違う」
「ホワイト書房」
「うーーん」
「ザ・ロングアンドワインディング書房」
「へへ」
「ジョン・ポール書房」
「そんな教会がありましたね」
「ヘイジュー堂」
「却下!」
「あ! これはどうだ! アップル書房!」
「うわー、それだー! それでいきましょう」
 これがのちに長く語り継がれることになる、「アップル書房 居酒屋カウンターの誓い」の瞬間であった。
「アップル書房、いいですね。お互いルーツが長野ですし。あの巨大アップル社に叱られても長野だからアップルなんですよー、なんて言い訳できるしね」
「そうそう。まあ、あの会社に叱られるくらいになったら凄いですけどね。へへ」
 2人のおじさんは、なにかを成し遂げたような気になって自然に乾杯をする。
「なんかいい名前ですね」
「すごく良い名前です」
「いいぞ、いいぞ」
 おじさんたちは夢見るような瞳で、居酒屋のちょっと油で汚れた天井の方に目を向ける。
「ところでビートルズ・フォントって知ってますか?」と赤羽氏。
「ああ、あのBeatlesのロゴのイメージを活かした文字ですよね」
「そうそう。あれね。実はAppleという社名自体は、ビートルズ・フォントが使われていないんですよ。だからそれで作ってみましょう。フォント自体には著作権はないし」
「おお! それはいい!」
 2人は自分たちの明るい未来の予感にさらに打ち震えながら、すかさずボトルキープした焼酎に「APPLE書房」と書き込むのであった。

金宮、ボトルキープ。

 数日後、赤羽氏から送られてきたのはこんな素敵なロゴだった。

右下隅にマークか屋号を加える予定です。

 雰囲気あるなー。でも怒られないかなー、ドキドキするなー。
 それは60歳おやじ2人の夢が、初めて形になったものであった。

(つづく)


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