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小説-<蛇の星>

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ポストアポカリプス小説<蛇の星>にまつわるものを置いています。すべて同一の世界観です。(完結済)
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2017年8月の記事一覧

〈蛇の星〉-1

〈蛇の星〉-1

[2017/8/27 改稿しました]

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 男は瓦礫を越えた。そして路地に入った。〈タケトミビル〉の裏手の錆びたドアを開けて、それを後ろ手に閉めた。発電機のスイッチを入れる。灯りはつかなかった。男は替えの電球の調達を忘れたことに気づき、舌打ちをしながら手探りでろうそくを見つけ出すと、それにマッチで火を付けた。給餌を待ちながら立ち尽くす〈アンテナびと〉たちの悲しげな顔の群れと、彼らの脳天から

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〈蛇の星〉-2

〈蛇の星〉-2

〈蛇の星〉-1

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〈廃物街〉は〈洗浄〉の産んだ数少ない副産物のうちの一つである。かつては数百万の人口を養っていた高度循環型都市は〈洗浄〉の余波によってそのシステムを崩壊させ、再利用されることのなくなった各種廃棄物は街路に溢れ出し、結果として広大なスラムを形成した。崩壊したシステムは計画を無視してガラクタを生産し続け、それを取り込んだスラムはまた新たなゴミを生み出し続ける。ゴミで成り立つ〈

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スケッチ - 赤いボタン

スケッチ - 赤いボタン

 駅と駅の間で止まったままになっているこの古い高架モノレールの窓からは、朝日に輝く緑青の海が見えていた。昨晩の焚き火跡は落書きだらけの車内にまだ焦げ臭く香っており、陽の光は車内に長い影を作っていた。照明は切れていた。単に電球が切れているのか、それとも何かが故障してしまっているのかは、カアスにはわからなかった。彼は赤紫色の薄い綿の座席に腰を深く座り直すと、がたつく窓を開けた。潮風が車内の空気と彼の短

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