よっこらせ、春支度。
春だから美容院にきた。
季節に流される女です。
クリスマスには骨つきチキンを食べる。
パツンッ シャンッ チョキンッ
頭の真ん中まで入り込んでくるハサミの音を聴きながら、髪を切ってもらおうと思った。
なのに何だこの被り物。
悔しい。とりあえず写真撮ろう…
この美容院を予約するのにはかなりの葛藤があった。
もう2度と別の美容院に行けなくなりそうな気がして距離を置きたくてー…
でももうとっくに片足は突っ込んでいる。
そうだね、春だね。
ちゃんと美容院に行こう、と背中を押された。
”ちゃんと”というのは、いい加減な気持ちではない、という心掛けみたいな意味で。
やはり今日も彼は完璧な提案をする。
科学的な根拠を用いて提案する。
正直水分子とかなんだとか分からないが、私は論理とトキメキが混ざった話に弱く、すっかり信じ込んでしまうんだから。
酸性?結合?自由水?
…プラス2000円で?
「はい、お任せします」しかないだろう。
だって、私は提案されに来ている。
話は病院の話になるが、
かかりつけの婦人科を転院するのだって、あの医師から全然提案がないからだ。
2度の喜びと悲しい結末後も彼が、あまりにもいつも通りの手順で私の中を調べたから。
何か他に検査は?と聞いてようやく、検査しますか、と言ったから。
もう一度言う。
私は提案をされに来ている。
それが「ゆっくりしましょうね」でも何でもいい。
私には知識も技術もそれについて対等なほどに賢くなるつもりもないから、専門家に頼りに来ているのだ。
そしてその専門家の提案の結果、私今、サラサラなのだ。
染めてもないのに髪の毛が桜ベリー色に染まってやいませんか。
夫はうれしそう。
アナウンサーみたい、とパァパァうれしそう。
夫がアナウンサー萌えという事実が明白になったことはさておき、私もアナウンサーの知性と品と野望のバランスが好きだからうれしい。
こんなにツヤに色めき立つ私がいるなんて、あの頃は想像もできなかったね。ボサボサに見えるようにしてください、ってオーダーしたこともあったもんね。
今日は久しぶりにパーマをしなかった。
経済的な理由で。
自分で少し努力してみようと思った。
巻いたりブローしたり…シルクの枕カバーにしたり。
それなのに彼は、少し背伸びさせるのがうまいんだ。
表参道を住処とする服も肌も透けた女子たちと、近所のスーパーで見切り品のカニカマを買う私とを、同じように扱うんだ。
決して諦めない。決して見くびらない。
応えたい、応えてみたい、と思う。
おい、ツヤツヤかよ。
喜びデレデレしてる私に言うのだ。
「これがあなたの本来の髪ですよ」
ゴワゴワでコシが強く。
何度冬を越したか分からない古株の雑草のような髪質が、「この草には花が咲くのかな?」とモノ好きが見つけてくれそうな感じになった。
私はまた、可能性を引き出されてしまった。
で、え?
来月も?私の髪にトリートメントをしたい…だって?
経済的な理由で、この美容師さんのところに通い続けるのは少し後ろめたい。
もしかしたら…とプランターに挿してみたらすくすく伸びた青ネギのように、私の髪の毛も自分でどうにかできたらいいのに、と思う。
ひとまず、どんなに曇った日も雨の日も、春らしいね、と受け入れる準備が整った。
花は咲かなくとも私の髪の毛は、庭に植えたネギくらいすっかり元気だ。
伸びきった髪でもゴワゴワの毛でも。
春は迎えられますよね。
ただ季節に流されてちょっと馬鹿になるのがスキなだけな女です。
もちろん、春は白シャツを着ます。
・・・・おしまい・・・・
今日はウナギ食べようか、とか。
そういうの、好きなんですよね。もちろん全然忘れてますよ。
スーパーのお陰で思い出せます。
さいごに、ネギどうぞ。
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