見出し画像

イングランドの紅葉

すっかり紅葉の季節である。
関東地方では紅葉の見頃を迎え、ようやく外出しやすくなってきた情勢も手伝って、各地の名所に行方不明の秋を探して多くの人が訪れているようだ。

世界中を見渡しても、特に日本人は紅葉をこよなく愛していると言えるだろう。
しかし、もちろん海外にだって紅葉はある。
私がかつて住んでいたイギリスにおいてもそれは例外ではない。

そこで今回は、イングランドで出会った紅葉の名所について取り上げたい。

イギリス人の紅葉観

イギリスへと居を移して数ヶ月、すっかり日も短くなってきた頃、日本人たる私は、せっかくだから異国の秋を楽しもうと、紅葉の名所と呼ばれる場所を探してみることにした。

やはり探せばあるものであり、グレートブリテン島における紅葉の名所がいくつか見つかった。その中でも比較的アクセスしやすいイングラント西部に照準を合わせて、週末の1泊2日で秋を探す旅に出ることにした。
私にとって、これが初めての車での泊りがけの旅であった。

しかし、イギリス人にとって紅葉というものは日本人ほど重要なイベントでは無いらしい。
とある昼休みに食堂で食事をとっていた際、週末何をするか?と言う話題になった。
私が「紅葉を見に行こうかと。」といったところ、英国人である私の上司はおもむろに窓の外を指差すと、「そんなのそのへんで見れるじゃないか」と笑った。

情緒のわからん奴め
心の中で上長にそう悪態をつきながら適当にやり過ごし、週末旅への思いを新たにした私であった。

紅葉スポットその1・ウエストンバート

まず土曜日に私が向かったのは、コッツウォルズ地方・グロスタシャー州に位置するウエストンバート国立樹木園(Westonbirt, The National Arboretum)である。

ウエストンバート国立樹木園は1829年にロバート・ホルフォードによって設立された植物園である。

ホルフォードはもともと存在していたウエストンバートハウスという建物を再建する際に、庭園を増築して植物園を作ることを計画した。

そして世はイギリスが栄華を極めたビクトリア朝である。
世界に覇権を轟かせた大英帝国の力で世界中の植物が集められたウエストンバートは、その後の継続的な整備や保全のかいもあって、世界的にも貴重な植物を一同に見ることができる。

画像1

600エーカー(東京ドーム約52個分)の広大な敷地には2500種以上の植物が植えられているというが、特に秋の姿が有名な公園となっている。

画像2

その理由は色にある。
イギリスにおいても紅葉自体は、私の上司が言ったとおりそのあたりを歩いていても見ることができないわけではない。しかし、その殆どは黄色く色づく木々なのである。
だがここウエストンバートに置いては、緋色に色づく紅葉を見ることができるのだ。

画像3

画像4

イギリスではなかなかお目にかかれないとはいえ、我々にとっては見慣れた紅葉の色とも言える。
それもそのはず、これらはJapanese maple(モミジ・イロハカエデ)なのである。

画像5

日本をはじめとするアジアの国から集められた樹木であるので、見慣れた紅葉であるのも当たり前といえば当たり前であるが、思いがけず異国の地で同胞に出会った気分だ。

これだよ。
こういう紅葉が見たかったんだよ。
“紅”葉とはこうでなくては。
そんな気分で色づく木々を眺めていた。

画像6

1982年からJapanese Maple Collectionとして特にモミジの種類の拡充を行った結果今では297品種に渡るラインナップが栽培されているそうだ。

画像7

紅葉狩りをしたくもなろうというものである。

画像8

紅葉スポットその2・ストウヘッド

その翌日、サマータイムの終わりに伴っていつもより1時間長い睡眠を摂った後に向かったのは、ウィルトシャー州はストウヘッド庭園(Stourhead House and Gardens)である。

ストウヘッドは1740年に開園し、「生きた芸術作品」とも称される1072haに及ぶ広大な庭園である。

もともと中世の男爵一族の邸宅であったストウヘッドであったが、別の銀行家の手を経て1717年に所有し、邸宅を建造したのが、ヘンリー・ホアである。
そして庭園としてのストウヘッドは、彼の息子であるヘンリー・ホア2世の時代に一気に花開くことになる。
銀行家でもありガーデンデザイナーでもあった2世の40年に渡る庭園づくりの結果、池と植物と建築が調和するイングランド屈指の庭園として今日までその名を知られている。

画像9

引用:https://nt.global.ssl.fastly.net/documents/maps/1431729787381-stourhead.pdf

パッラーディオ様式の邸宅を抜けて、湖の方へ向かおう。

画像10

湖畔の遊歩道には落葉樹が多く並び、それらが紅葉の時期には色づいて秋らしい姿を見せてくれる。

画像11

画像12

色づく落葉樹の豊富さで言えば、先のウエストンバートには及ばないかもしれない。
しかし、ストウヘッドの魅力はやはり庭園としての他の要素との調和だろう。

画像13

色づく木々と湖、そしてそれらを邪魔せずに配置されたパッラーディオ様式の橋やその他建築が、植物園ではなく庭園としての魅力を放っている。

画像14

画像15

庭園内には思い思いに過ごす様々な動物たちの姿もある。

画像16

画像17

本日のマグネット

本日のマグネットがこちら。

画像18

正直あるとは思っていなかったのだが、ストウヘッドの売店にはしっかりとマグネットが売られていた。
パッラーディオ様式の橋の向こうに見える神殿風の建物と植物たちという、最もこの庭園を象徴すると言ってよい景色が描かれている。

画像19

やはり日本に生まれたからには、たとえ遠く離れた異国の地に生きたとしても四季を感じて生きていたいものだ。
そんな私の思いに応えてくれるイングランドの秋の自然は、その週末、私の応援するプロ野球チームが勝ち取った10年ぶり3度目の日本一の栄冠への喜びを誰とも分かち合うことができない悲しみを、幾ばくか和らげてくれたのであった。


最後までご覧いただきありがとうございました。
次回はBucket Listの予定です。


いただいたサポートは、新たな旅行記のネタづくりに活用させていただきます。