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本:いかにして その数式を解いたのか。その美しさを垣間見る。

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』(新潮社)

クラフト・エヴィング商会が装幀を手がけたもの。
フェルマーの最終定理が証明されるまでの数学界の歴史と、どんな理論を用いて証明がなされたかの物語。
数学の歴史が語られていくのに、大河ドラマものというよりも、私小説を読むように、静かに物語が流れていく感じ。
クラフト・エヴィング商会の装幀が、その雰囲気に拍車をかける。
相乗効果。

随分昔に一度読んだきり。細かい内容は忘れてしまっていた。改めて読み直そうとパラパラとページをめくっていたら、数学パズルの問題が出てきて、そうだそうだと思い出してきた。
誕生日が被る確率とか、一筆書き必勝法(?)とかが出てくるので、多湖輝氏の『頭の体操』シリーズが好きな人は、とっつきやすいかも。
ヒルベルトの無限ホテルなんか、ロマンがあって漫画の題材にもできそうで、非常に好み。

証明の重要なところで日本人の志村さんと谷山さんが出てきて、俄然読む気力が湧いてくる。
数学でも日本人っているんだな。
ピタゴラスの定理とか、クロネッカーのデルタとか、外国人の名前がついたものしか知らなかったから、数学界にもノーベル賞級のすごい日本人がいることを私は知らなかった。なので、志村さんと谷山さんが出てきたのは新鮮だった。
そして、この頃から「あれ? この本の著者、日本人だっけ?」 と錯覚し始めた。

フェルマーの最終定理の証明の、細かいところは出てこない。「こんな理論を使った」という概要の集積だけで、充分 物語になっている。本物の論文は、何しろ130ページに及ぶらしいし、私には理解できない。ウィキペディアの『フェルマーの最終定理』の項目すらチンプンカンプンなのだから。
それなのに、この本を読むと、なんだか雰囲気 分かった気分になれて、
「ほー!」と思ってしまう。
親しみが持てたというのか。
数式の裏にも人間がいて、それぞれの人生や物語があって、数式にも血液が通っているんだな、と思うような。

物語の途中で四色問題の証明をコンピューターが行った、というエピソードが紹介されていた。それに対する、フィリップ・デイビスという数学者の感想が、この本の趣旨、雰囲気の核を内包していると思った。

*****

「すばらしい! どうやって証明したのだろう」というのが私の最初の反応だった。私は輝かしい洞察を期待した。その証明の核心には、私の一日を変えてくれるような美があるに違いないと思った。だが返事を受け取ってみると、「彼らは問題を数千のケースに切り分け、それらを次々とコンピュータで計算したのだ」と言うではないか。私はがっかりしてこういった。
「なんだ、結局大した問題じゃなかったんだ」

(『フェルマーの最終定理』本文より)

*****

高校生の時に通っていた塾の先生が、
『数学の問題は、クラッシック音楽を聴くように、いかにエレガントに解くかが重要だ』
と言っていたのを思い出した。

そして、大学の恩師が言っていた、
『サイエンスは、神様がくれた最高のエンターテイメントだ。』
という言葉も。

神様がくれた最高のエンターテイメントを、エレガントに解いたのか。
その物語が描かれていた。

コンピュータが台頭してきた今、エレガントな証明すら時代遅れになってしまうのかもしれないけど、
私はこの本が好きで、夢・ロマンを感じるし、美しい証明が生き残っていくといいなと思った。

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