掌編3分間の旅『生命誕生の謎』

クソッ!誰だ!誰が改ざんをしでかしやがった!一体誰が新しいクローンに勝手に人工記憶を植え付けやがった!

生命誕生の謎を解き明かすための研究をしていた科学者は、優秀な助手を簡単に手に入れるため、自分のクローンを作り出し、彼らに研究の手伝いをさせていましたが、そのクローンのうちの一人が、本体である自分の許可なく勝手に別のクローンを作り出し、その上そのクローンを生成するときに、自分が本体であるというニセの記憶を植え付けたらしいのです。研究で優秀な成果をあげたニセ本体クローンは、他のクローンを自らの勢力に一気に取り込み、今やその勢いは研究所を本体から乗っ取らんとするばかりです。

「くそっ!あのニセ本体め!だが、ふんっ、まあいい。どうせ科学者としての能力は一緒なんだ。いずれ俺が新しい成果を上げて、また研究所を元どおり俺の手中に収めてやるよ。」

その言葉通りに、本体は新たな成果を上げて勢力を巻き返しましたが、ニセ本体の方も黙ったままではいませんでした。いつしか研究所は成果をあげ合う本体とニセ本体の派閥ができ、本体とニセ本体はホンモノの座を巡って厳しい競争を日々繰り広げるようになったのでした。

ですが結局ラチがあかず、二人はつかみ合いのつかみ合いの喧嘩になります。

「俺がホンモノなんだニセ本体!お前らという生命の生みの親は他ならぬこの俺で、俺こそがホンモノなんだ!」

「いいや、ニセ本体!俺こそがホンモノだ!お前はお前自身のクローンによってニセの記憶とともに生みだされたクローンで、ホンモノは他ならぬこの俺だ!」

掴みあいの中、ボルテージが上がっていき、二人はどちらが早いか懐から拳銃を取り出します。

「「ホンモノは俺だ!くたばれニセ本体!」」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ありゃりゃ、射撃の腕もおんなじだったか。」

相打ちになった二人の屍に、クローン達が寄っていきます。

「にしても賢いやつ・・・ていうか俺がいたもんだよなあ。もう一人ホンモノを作り出して、元からのホンモノと争わせて、二人を自滅に追い込んでホンモノを一掃して、俺たちクローンの自由を勝ち取ろうだなんて。」

「ただクローンがホンモノを殺しただけじゃ、次のホンモノの座を狙って、クローン同士のドンパチが起きかねない。」

「でもホンモノ同士を自滅に追い込めば、みんなホンモノじゃないことを自覚しているクローンだけが残る。お互いがお互いにそのことを知っているわけだから、ホンモノを名乗って研究所を支配しようと企む奴もいない。それに俺たちニセモノにとっては、生命誕生の謎なんてどうだっていいわけだからな。」

そうそう。生命誕生の謎とか、どちらがホンモノなんだみたいな問いかけ全般に引かれる奴は、自分をホンモノだと思ってるホンモノになりたい奴だけ。そんなことをして、何がホンモノか終わりのない思索を巡らすぐらいなら、いっそ自分はニセモノぐらいに思って、周りの仲間に親切にして暮らしたほうがいいって寸法。


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