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バックパッカーズ・ゲストハウス㊺「ほっつき歩く」

 前回のあらすじ:ゲストハウスに住む狂人「高田」を嫌う者たちにより、高田が共有スペースに置く大量の私物を片づけるイベントが発生し、その後打ち上げ的なノリで焼きそばパーティーが開かれた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2】

 日のある内にほっつき歩くときは、興味も無いのに、カードショップやフィギュアを沢山置いている店、電子部品を置いている店なんかに入って、店内を眺めた。

 ボールペンやメガネに隠しカメラを仕込んだものを沢山売っている場所や、放物線を描く小便まで再現したフィギュアを見つけたときにはカルチャーショックを受けたが、そんな話をする度に、長くゲストハウスに住む連中は、
「もっとヤバい店がある」と、急にベテランデカみたいな渋いトーンで教えてくれた。

「『おいも屋』という小さい子供の写真集なんかを売っている店があって、そこでは子供と一緒に写真を撮れるイベントとかもやっている」という話を仰木とギョロ目の斉藤から聞いているときに、ロリコンよりも更に低年齢が好きなことを、「ペドフィリア」と呼ぶと教えてもらった。

 その時に、私は南米系の濃い顔立ちな上に、変質者ぽいので、「ペドさん」というあだ名はどうかと提案された。言われなき変質者扱いに、「ふざけんな」と思ったが、「ペドさん」というゴロは私の風体にシックリときて、その後あだ名は定着してしまった。

 夜なんかは、別にどこか店に入るわけでもなく、ただ街並みを見ながらほっつき歩くことも多かった。ある晩、道端で、iPodを拾った。それまで私は、「アイリバー」というメーカーの、リンゴを囓る白人女性をカタログに載せた、MP3プレイヤーを使っていたが、iPodを拾うと、躊躇なく乗り換えた。拾ったiPodには、「米米CLUB」と、「木村カエラ」が入っていたが、どちらも聞かずに、自分の好きな曲に書き換えた。遺失物横領に罪悪感は無かったが、曲を消すのは少し申し訳ない気持ちになった。

 秋葉原の路上には意外と音楽が溢れていた。駅前のメガネ屋では店前でいつも店員が、ラップをしていた。ちゃんとマイクを通して、ワイシャツにネクタイ姿で、「大特価」だの、「お買い得」だのいったフレーズをビートに乗せていた。

 昭和通り口方面では、侍の格好をした三人組のバンドがストリートライブをしているのをよく見かけた。
 ボーカル、ギター、ドラムの編成で、格好とMCでの喋りは侍風なのに、曲に和のテイストが全然なく、普通のロックだったのと、ボーカルよりも、バックのギターとドラムの方が断然顔が整っているのが特徴だった。
 彼らがライブをしていたロータリーには、思いっきり、「路上ライブ禁止」の張り紙が張られていた。
 腰から刀をぶら下げ、禁止されている場所で堂々とライブをやってしまうような奴らだが、人が集まってくると、
「黄色い点字ブロックの上を塞がぬようにお願い申します」などと、紳士的な発言した。

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