『モモ』ミヒャエル・エンデ (読書感想文)

めちゃくちゃ良かった。

現代を痛烈に風刺するこの物語が、懐古主義の随筆でも、説明口調の論文でも、嫌みたらしいエッセイでもなく、柔らかい雰囲気のファンタジーであるところが、何よりも好きだと思った。
だからこの本を読んで感じたことを、効率的良く論理的に説明しようとするのは、何となく無粋な感じがする。

遥か昔から、人々は物語が好きだった。演劇の世界に没入し、もう一つの人生を体験することを愛していた。
この物語の舞台は、幾世紀のその昔、多くの人が集った円形劇場の跡地。
ひっそりとした静寂が包むその廃墟に、モモという不思議な少女がいた。
この劇場でかつて多くの人がそうしたように、私たちはこの物語に没入し、もう一つの人生を体験することができる。

「モモ」は、時間についての物語。

世界は“便利”になった。
手紙が電話になり、メールになり、LINEになった。徒歩が車になり、新幹線になり、飛行機になった。人間は“無駄な”時間を節約するのに一生懸命だ。それなのに私たちはいつも時間に追われている。
節約した時間は、どこにいってしまったのか?

“時間が流れる”ということは、それがそのまま“生きる”ということだ。
淀みなく流れていく時間を細分化し、仕分け、節約することに、どれほどの意味があるだろう?

目を閉じて、モモが聞いた太陽と月と星々のメロディー想像し、思いを馳せる。
1時間、1分、1秒、そんな単位では測れない、私たちが生きている、今この一瞬の、愛おしい「時間」について。

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