『楽園のカンヴァス』原田マハ (読書感想文)

めっちゃ面白かった。

作者の原田マハさん自身が、絵が好きなのが文章から伝わってくる。美術館で働いたという経験から、キュレーターの仕事や企画展の裏事情などがとてもリアルに描かれている。
史実とフィクションの融合が鮮やかで、物語に織り込まれたルソーの絵の“秘密”が、物語全体に神秘的な含みを持たせている。

話の中に出てくる様々な作品が物語に彩りを添えていて、絵を調べながら読むのがとても楽しい。
何万の文字を並べても、この世の全ての言語と単語を駆使しても、一枚の絵を完全に再現することはできない。
絵には文字通り言葉にできない魅力が詰まっている。絵の魅力を表現するのに、作者は“物語”を使った。

画家、鑑賞者、モデル、キュレーター、コレクターといった、多視点から一つの作品をめぐる形になっているのが面白い。

命をかけて絵を書いたルソーの情熱は物語に、
キュレーターの世界はリアルに、
コレクターの意図はミステリーに。
これだけの要素を、誰が読んでも面白い一つの物語にまとめ上げたのが見事。

ルソーの「夢」を調べて、何度も見ながら読んだ。不可解で面妖で、どこか鬼気迫るものがある絵だと感じた。

むせ返るような草いきれ、異国情緒の笛の音が飽和する密林に横たわる女。もたげた左手は、何を握りしめているのだろう?
鍵を握るのはヤドヴィガの物語。ルソーを愛する者たちよ、幻の楽園に足を踏み入れ、その真贋を見極めろ。

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