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爺ヶ岳~鹿島槍ヶ岳残雪期縦走(回想)

冬季ルートにて

夜半、針ノ木岳からの強い風の音で目覚めた。
遠く富山湾から吹き抜けて来た風は扇沢を越え
ほんの申し訳程度に立つ木々に守られ、スコップで掘り下げた雪原に立つテントを激しく叩く。
里では春の花が咲き乱れているのにここは別世界。
自分がこの雪の斜面の中腹にいることの一期一会にブルっと身震いのする高揚感を感じた。

この北アルプスの長野県と富山県を分かつ稜線に明日向かう。
外は瞬く星が明日の晴天を約束してくれていた。

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1日目

朝5時台に辿り着いたので爺ヶ岳の登山口にうまく車を滑り込ますことが出来た。爺ヶ岳南尾根入口までは柏原新道から。
所々雪も出てくるが大方は土の道でちょっと拍子抜け。
いよいよ爺ヶ岳南尾根入口にたどり着くと、目の前は急傾斜な雪斜面が立ちはだかる。

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木々や笹につかまりながら、この急傾斜を越えるとちょっと荒れた感じの斜面を行く。
基本的に赤布や踏み跡をはずさないように尾根を忠実に進む。
尾根上は途中までは雪が消えて木の根のうるさいかなり歩きづらい道だ。
やっと雪が出てくると少しほっとするが、樹林の中は段々に氷化してきてノーアイゼンではきつく、そのうちに右手に雪庇が出てくるのでその根本を歩くルートに移動する。

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標高を上げていくと傾斜はほぼハシゴ状になり、さすがにストックでは怖く
ピッケルに持ち替え、最後の斜面はダガーポジションで登る。

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私はさすがに怖く、左手樹林帯に逃げた。
ここを抜けるとJPの一角である開けた雪原に出、目の前には、爺ヶ岳がもう指呼の間だ。

雪原にテントを張ると、昼には雨が降ってきた。
この雨が一時的なものなのは卓越天気で確認済みなのでさほど慌てない。

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案の定夕方には晴れ間が現れる。
岩小屋沢岳あたりに陽が沈むと、あたりは少しづつ色を消していき、夜の帳に包まれた。

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2日目

4:50の日の出に合わせて起床

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今日は、相方と長男は鹿島槍ヶ岳まで、軟弱な私は爺ヶ岳までの行程。

5:45相方達を見送って二度寝(爆
お日様に暖められたテントの中は暖かくもう極楽。
さすがにやっぱ登山は朝だよね、なので7:00に爺ヶ岳に向けて出発する。

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爺ヶ岳南峰までは夏道が出ているのでノーアイゼンで向かう。
標高差は300m程ののんびりとしたハイキングだ。
登るに連れて背後の槍穂の高さにどんどん追いついてくる。

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そして種池山荘を眼下に見やる頃立山や剱岳がどんどんと大きくなってくる

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そして爺ヶ岳の南峰に立つ。
ここに来てきれいな双耳峰の鹿島槍ヶ岳がそのすばらしい勇姿を現す。
なんと美しい姿だろう。(トップ画像)
冷池山荘から布引山を経てゆるやかに弧を描きながら南峰へと収れんしていき、北峰となかよく肩を並べて雪をまとう。
曲線のなめらかさと雪のなめらかさのこれほど美しい競演があるだろうか。
そこに少しづつ姿を表した岩肌と針葉樹の黒木がなんといいアクセントだろう。
色のバランス、形のバランス、容積としてのバランス、
そのすべての均衡を保っている姿が鹿島槍ヶ岳の醍醐味なのだろう。

こうして私が鹿島槍と対峙している時、相方達は冷池山荘にて英気を養って
いよいよ布引山、鹿島槍ヶ岳へと歩を進めて行く。

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鹿島槍ヶ岳までもほとんど夏道が出ているので、特に困難もなく淡々と進み
そしてJPから約5h、念願の残雪期鹿島槍ヶ岳に2人揃って立った。

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厳しく連なる後立山連峰の山々を望みながら、さぞ満足な山頂だっただろう。

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下山は、相方相当足にきてしまったようで、ザラメ雪に足を取られて何度も滑ってしまったようで、長男に遅れること30分、都合10hの行程をやっとの思いで下ってきた。

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3日目

夜半より荒れ気味な模様で雪混じりとなった。
朝食の時間にぐら~りぐらりと地震を感じて伊豆大島沖が震源であったことを知る。(2014.5.5)
3.4日も飛騨地方に地震があったようだが、こちらはまったく感じなかった。
今日は登ってきた登路を下るだけ、支度をして3人いつもの様に自分達のペースで下る。

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相方と長男は左手雪庇から下って行ったが私は自信がなく樹林帯から下る。

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考えてみたら、樹林帯の2200m圏あたりは登りでは雪庇を歩いていたので、ここは初歩きだった。

相変わらず氷化して歩きにくかったので、少し右寄りの雪面の踏み跡に入ったのが事の始まり。
左手が白かったので、そこが雪庇部分だと疑わずに下っていくと、
やがて赤テがなくなり
雪庇だと思っていた左手は小さな尾根をはさんだ雪原で、その先にも尾根ぽいものが見えている。

ここでパニックに陥る。

扇沢が目の前に見えているし、だいぶコースより右手にずれたことはわかる昨日相方に地形図を渡してしまったので、自分が持っていなかった事に今更気づいた。
道間違いしたら来た道を戻れが鉄則なのに、もともと相方達と距離が離れているところに100m登り返して100m正しい道を下ると、その間にも相方たちが下っていることを考えると
標高差で300m以上離れることを考えてさすがに恐怖。。。

あらん限りの声で相方を呼ぶとかすかに声がする。
その声が下の方から聞こえてくるのか、横の方からなのかさっぱりわからない。
なおも呼び続けると、相方と長男が登り返してくれたようで、やがて横方面から声が聞こえてきた。

この地点で道迷いした方もいたようで、雪原にかすかな古い踏み跡がある。
もしやトラバースできそうとふんで恐る恐る第一の雪原をトラバースする。
小さな樹林地帯を越えると第二の雪原に出て、この先が正しいコースのようだ。
正直、ストックでのトラバースはもう限界で、相方とやっと合流できたときに、相方がザックのピッケルを出してくれた。
そのピッケルを使いながらなんとか正しいコースに復帰することができた。

グループが分散してしまったこと、道間違いに気づいた時に戻るという鉄則を犯したこと
振り返ればいけないことだらけな失敗をやらかしてしまった。
ただ、自分の位置がわからなくなったときに、人間はこんなにもパニックになるということはまざまざとわかった。冷静になって戻れば、そんなに難しいルートではないのに。。。

今回は樹林帯と雪庇部分という別ルートを取ったので、自分のことを棚に上げて言うのもなんなのだが、
お互いに相手を視野に入れて行動することは鉄則でしょう。
グループから離れるのは恐怖で、その恐怖が冷静な判断を狂わせる。

家に帰って地形図をみると、2250m圏で徐々に右手にそれ、2130m圏で小さな支尾根に乗ってしまったようだった。
初心者丸出しなばかばかしいミスですが、自分への戒めも込めて記しておきます。

その後は雪が腐ってきて、また土も出てきているのでアイゼンをはずす。
腐った雪は本当に歩きにくくて難儀です。
ラスト登山道に降りるところでは、笹に乗った雪が落ちてスリップ注意だった。
あとは歩きやすい登山道を下って登山口に戻った。

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