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半宵の犬

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はじめて連載にチャレンジしています。
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半宵の犬 (2)

半宵の犬 (2)

ふと気づくとあたりは眩しかった。朝だ。抱えた仕事に潰されたまま寝てしまったらしい。時は無慈悲なものでいくら声をかけても立ち止まってはくれない。仕方がないので背広に腕を通しネクタイを締める。

耳のずっと奥で昨日の犬の声がする。犬の声などこれまで全く気にしたことはなかったのだが、この犬の声はなぜだか何度も何度も反響して頭から離れない。何がそうさせているのかと考えてはみるが、いくら考えても答えは出ない

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半宵の犬 (1)

半宵の犬 (1)

どこかで犬が遠吠えをしている。人のない夜半の寒空に響くこの犬の声はどうも虚しく頼りない。部屋で一人持ち帰った仕事をしながら私はふっとため息をついた。私はこんな寂しい夜にいったいなにをしているのだろう。

仕事が手につかなくなってふとスマホに目をやり、とりあえずスイッチを押してみる。特に何の通知も来ていないようだ。とりわけ仲の良い遊び相手がいるわけでもない私のことだ、なにか通知があったとしても会社か

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