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「夏、お前はなぜそれほどまでに遠慮を知らない? 俺はお前に幾度となく言ったはずだ、人間というのはお前が思っているよりずっとずっと熱に弱い生き物だと。人間ごときにはお前の力を抑えるだけの十分な能力は備わっていないからお前のほうが多少手加減をしてやらないと人間はいずれみな滅びると。これだけ言ってまだ分からないのか」木陰のベンチに伸びながら呟いてみた。俺がいくら説教をしたところで夏といったら手を緩めるつもりはさらさらないらしい。

俺は夏が嫌いだ。冬の寒さは着込めば耐えられるけれども夏の暑さは全てを脱ぎ去った後すらまだ耐えがたい暑さを感じるのがタチ悪い。これでいて身につけたものを外しきることすら社会が認めないのだから生きろという方がどうかしている。

ベンチの下に隠れていたスズメがひょこひょこと陽射しに出てきた。俺がこんなにも忌み嫌う夏の炎天に勇敢にも立ち向かう小さなスズメ、こいつのほうがずっと夏に強い。スズメにすらできることがどうして俺にはできないのだろう。スズメは陽射しに現れるやいなや熱源に向けてまっすぐ羽ばたいていった。お前は気でも狂ったのか、そんなところに行ったら焼けてなくなってしまうぞ。スズメを目で追いかけると、少し離れたところにある池に降り立った。

(ああ、あいつは水を飲みに行ったのか。自分で羽ばたかないと水も飲めないなんて大変だろうに。いまの俺だったらあんなことできないな。でも、いざスズメにされたら否が応でもやらなきゃいけないよな。人間で良かった)

陽射しの中をまた歩いていこうと決心した俺はゆっくりとベンチから身体を起こした。

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