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限定

「限定」、どんなにつまらないものでもこのドレスを着ればキラキラと輝いているように見えるものです。一昨日も仕事終わりに最寄り駅の前に広がる商店街を這いつくばっている時にケーキ屋さんの店頭にこのドレスが飾られているのを見てつい立ち寄ってしまいました。

その店でドレスを着せられていたのは「温州みかんのフロマージュ」。温州みかんという純日本的な主役にフランスの洒落たアクセサリー、それも「限定」なのだから今買わない理由などない。ただのチーズケーキよりもひとまわり高いけれど私は無神経にひとつ買うことを決めました。

家に持ち帰っている時の私は得体の知れない高揚感でした。さっきまで仕事に潰されて引きずられてやっと動いていたは思えない足どりの軽さ、しあわせ…。

部屋着に着替えた私はさっそく箱を崩してみました。外套が徐々に剥がされていくと中には白く輝く扇形、幸せです。私はフォークを差し込み扇形の端を口に入れてみました。なんのことはない、普通のチーズケーキです。合間に差し込まれたミカンが特別を主張してはきますがだからといってそんなに価値があるようには思えない。

でもわたしは幸せでした。未知を自宅まで持ち込んでいるその体験が、商品そのもの以上の価値を産んでいたことは私にとっては明らかです。私は空になった箱を見て、毎日でもこのドレスに騙されてみようかしらと思いました。

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