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オムニチャネルを阻むもの、実は組織設計かもしれない

オムニチャネルの理想と現実

現代の消費者は、オンラインショッピング、モバイルアプリ、ソーシャルメディア、そして実店舗など、さまざまなチャネルを通じて商品やサービスを購入しています。この多様な購買行動に対応するため、企業はオムニチャネル戦略を採用し、顧客がシームレスな体験を享受できるよう努めており、一時期、オムニチャネルは小売領域でのトレンドとなりました。

オムニチャネルとは[出典:宣伝会議]

現在では、オンラインでの注文後に実店舗で商品を受け取る「店舗受け取り」や、オンラインでの購入後に店舗で返品・交換ができるサービスが一般化しています。さらに、モバイルアプリやウェブサイトを通じて店舗の在庫状況をリアルタイムで確認できるようになり、店舗での商品試着や体験を通じてオンラインでの購買を促進する取り組みも増えています。

一方で、オムニチャネルの真の意味は、顧客が複数のチャネルを自由に行き来しながら、一貫した体験を得ることができることです。それを踏まえると、完全な意味でのオムニチャネル体験には至っていないとも考えられます。

では、技術やサプライチェーンマネジメント(SCM)などが進化すれば、そういった一貫した体験を得ることはできるのでしょうか。実際、それはそう簡単ではないと思った出来事がありました。

アパレル店のセールススタッフはどのように評価される?

先日、ある大手アパレル会社の店舗で働く知人と食事をしているとき、興味深い話を聞いた。

友人
「うちの会社では、セールススタッフの成績はレジで会計する際に入力する社員コードに紐づけて評価されるんだ。」


「そうなの?例えば、二人のスタッフが接客した場合、成績を分け合うことはできるの?」

友人
「いや、分け合いはできなくて、最終的に会計を担当した1人の名前でしか入力できないんだ。うちの店舗ではスタッフ間で問題は起きていないけれど、数字に厳しい店舗だと、誰の名義で成績をつけるかが非常にシビアになるんだ。」


「それは大変だね。ところで、店舗で商品を見て後日ECサイトで購入するお客さんがいた場合はどうなるの?」

友人
「その場合、店舗で接客したスタッフは評価されないんだ。ただ、ECサイトにはスタッフのスタイリングが紹介されていて、そこからの購入で少しは評価が入るけどね。」


「なるほど。ECでの購入も店舗での購入も、もっとお客さんの実際の体験に基づいて評価されるといいのにね。」

友人
「それはなかなか難しいんだよね。こっちも販売の成績が給与に影響するから、評価につながらないECサイトの取り組みには時間をかけにくいんだよね。」

この話から、小売業界でオムニチャネルが実現しないのは、新しい取り組みを既存の組織設計に無理に当てはめようとしているからかもしれないと感じた。

「戦略は組織に従う」

この言葉は、アンゾフ・マトリクスで知られるイゴール・アンゾフが提唱したものです。

アンゾフ・マトリクス[出典 グロービス]

この考え方では、組織が採用する戦略はその組織の構造や能力に適合するよう設計されるべきだとされています。特に「戦略は組織に従う」という言葉には、新しい取り組みが既存の事業に最適化された組織によって阻害されるという悪い意味合いも含まれています。実際に、多くの企業がこの問題に直面しています。

さらに、最近の話題として、「オムニチャネル」という概念が約5-10年前から提唱されていながら、期待された成果を出せていないのは、まさに「戦略は組織に従う」現象のためかもしれません。具体的には、オムニチャネルを推進しようとしても、既存の店舗中心の組織設計が障害となり、ECサイトなどとの真の融合が達成されず、全体最適の実現には至らないのです。

経営層がどれだけ新しいコンセプトを打ち出しても、既存の仕組みのままでは現場は新しい取り組みを実行する前に日常業務に追われ、設計されたインセンティブも新しい戦略の実行を困難にします。一方で、ドラスティックに組織を変革して「オムニチャネル」を本格的に推進するのも、そのハードルは非常に高いです。

だからこそ、“真”のオムニチャネル実現は競争優位性につながる

出典:Pixabay

逆に言えば、組織設計も含めた“真”のオムニチャネルを実現する企業は、他社が容易に模倣できない独自の競争優位性を築くことができるとも考えられる。これは顧客の深層的なニーズを理解し、その購買行動に直接的に結びつけることができるためです。そして、これは表面的な施策や取り組みの模倣だけでは達成できず、組織設計を根本から見直すことが不可欠です。

しかし、大企業ではこのようなドラスティックな変革は簡単ではなく、時間もかかります。全面的な変革は一朝一夕には進まないでしょう。もし“真”のオムニチャネルを実現するならば、それは機動性のある小規模な店舗や、大企業内での社内スタートアップ、新規ブランドでの試みが有望かもしれません。

参考書籍

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