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『トニー滝谷』 宮沢りえの美しさ。坂本龍一のテーマが印象的。「みんなで村上春樹の世界を作ろうプロジェクト」のような作品。

評価 ☆



あらすじ
滝谷正三郎は、第二次世界大戦中に上海のナイトクラブでジャズ楽団のトロンボーン奏者をしていた。戦後、刑務所に入れられて仲間は次々と処刑される。なんとか生き延びることができて、昭和21年春、帰国。ところが実家は空襲でなくなり、両親と姉も他界していた。



村上春樹原作の映画はいくつかある。日本では、大森一樹監督の『風の歌を聴け』、山川直人監督の『パン屋襲撃』と『100%の女の子』、野村恵一監督の「土の中の彼女の小さな犬」を映画化した『森の向う側』など。



この中で最も面白かったのは『パン屋襲撃』。他の映画は比較的オフビートでハマる人にはハマるだろうけど、そうでないとつらい。



2005年に公開された市川準監督の『トニー滝谷』もオフビート。キャストはイッセー尾形、宮沢りえ、音楽は坂本龍一、監督が市川準という豪華な顔ぶれだ。もちろん、一筋縄ではいかない。



この映画は、なんだか「まず村上春樹ありき」という感じである。彼の世界をみんなで作り上げようとしている。市川準の映画でもイッセー尾形でも宮沢りえでもないし、坂本龍一のものでもない。



映像の趣味はいい。きちっとしている。非人間的かもしれないけれど、好感が持てる。多分、それは村上春樹という人が頑固な世界を作り上げているからだろう。



『トニー滝谷』を作り上げるというプロジェクト自体そういう趣旨のものなのかもしれない。つまり、村上春樹に対するリスペクトで成立させようとした感じである。別の言い方をすれば、市川準をもってしても村上春樹の世界には勝てなかった感じともいえる。



確固たる世界を作り上げる村上春樹の特質の基本は、孤独だと映画は示す。『トニー滝谷』は孤独という要素がクローズアップされている。ちなみにラストの微妙な終わり方は映画のオリジナル。僕は原作の方が好きだ。



それでも出色なのは、坂本龍一のテーマ曲「Solitude」(孤独、という意味ですね)と宮沢りえの美しさ。このふたつだけでも映画は観る価値がある。





ただ、映像そのものは美しくても物語の起伏がうまくいっていない。平坦な道をまっすぐに進んでいるだけの物足りなさを感じてしまった。



追記



ちなみに「トニー滝谷」という作品タイトルを聞くと、どうしても「トニー谷」を思い出してしまうよね。トニー谷は、いわずとしれた往年のコメディアン。スーツ姿に、そろばんを片手に「はぁ、あなたのお名前なんざんしょ~」とラップを踏んでいたのを思い出す。孤独と全然ちゃいます。




続 追記



村上春樹の海外作品も最近多い。トライ・アン・ユン監督の『ノルウェイの森』、ロバート・ログヴァル監督の『神の子どもたちはみな踊る』、イ・チャンドン監督の『バーニング』(『納屋を焼く』)などがある。おっと、最近は、松永大司の『ハナレイ・ベイ』も忘れるところだった。





続 続 追記




『ドライブ・マイ・カー』も滝口竜介監督によって映画化されて、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したという。「ドライブ・マイ・カー」だけでなく「木野」「シェラザード」などのエピソードも含まれているらしい。なるほどね。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-12-26



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