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『それでもボクはやってない』 実話だというが映画にすべき題材だったのか? という疑問が残る。

評価 ☆☆



あらすじ
フリーターの金子徹平は、就職面接に向かうために通勤ラッシュの電車に乗り込む。身動きも取れない程の満員電車。ホームに降りた徹平はあ
る女子中学生に「このひと痴漢です」と指さされる。駅員はすぐに徹平を捉え、そのまま警察に連行されてしまう。



『それでもボクはやってない』は2007年公開の作品。監督は周防正行。出演は加瀬亮、瀬戸朝香など。まるで伊丹十三監督の映画を観ているような気分になる。『シコふんじゃった』や『Shall We ダンス?』を撮影していた周防正行監督とは思えない……周防正行監督ってこんな監督だった? というのが第一印象だ。



痴漢冤罪事件をテーマに、警察とか国家権力のあり方みたいなものを描こうとしている。人が人を裁くことが本当にできるのか、裁判とは神の領域ではないか、みたいな感じにまで広げて考えることもできる。



よく練られている話ではある。黒澤明の『羅生門』みたいなところもある。本当の真実とは何か? というような。結局のところ、映画として面白いのかどうかに尽きるのだが、確かにこれまでにない面白さはある。調査を重ねてリアリティを追及している。ただし、そのことと映画として面白いかどうかには相関性がない。



例えば、この映画はそのまま本として描くことができるだろう。小説ではなく、ノンフィクションとして書くことが可能な題材である(というかもともとはルポものなのだ)。ノンフィクションではなく、映画にしなくてはいけない必然性はあったのか? それがこの映画の弱点だ。映画にする必然性はどこにある?



登場人物のキャラクターは魅力あるけれど、全体としては情報提供映画である。そういうのは伊丹十三監督で十分。周防監督の生涯のラインナップにひとつくらいはあってもいいだろう。でも、『Shall we ダンス? 』以来、11年ぶりの映画にはふさわしくない。やはり、監督にとって3年に1本くらいのペースで撮影するくらいのほうがいいのかもしれない。いまの日本映画界の状況だと無理だけど。



そうすれば妙な思い込みも消えちゃうんじゃないかな。今回は理詰めで、しかものめり込み過ぎている。周防監督が頭の良いひとなのはわかる。でも、かつての主戦場だったピンク映画の頃の、あのノリの良さはどこに行ったのか? 今回の映画でもほんの少し垣間見ることができたけど、全体としては残念である。



とはいっても、フジテレビ系映画よりもしっかりしている(当たり前か?)。次回作も楽しみな監督である。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-04-14



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