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『サード』 映画がアートとしてその可能性を探っていた頃の作品。キャストがいい。

評価 ☆☆☆



あらすじ
関東朝日少年院。収監された少年たちは窃盗や婦女暴行などの常習犯ばかりだった。彼らの朝は点呼から始まる。施設内の掃除の後に身支度を整える。殺人罪で収監されているのは18歳の妹尾新次。野球部でポジションが三塁だったため、周囲からサードと呼ばれていた。



映画を好きになった頃、何を観ていたのかな? と考えみると、ATG映画が多かったことに気づいた。大好きってわけでもないのだが、既存の映画にはない魅力があった。



『心中天網島』なんて妙な映画だった。映画がまだアートしていた頃の作品群。いまはATGみたいな作品が少なくなった。ハリウッド的というか、マンガの亜流みたいになってしまったし、どれも同じように思える。もっといろんな映画があってもいいのに、と思う。



1978年公開の『サード』という映画。脚本が寺山修司、監督が東陽一。登場するのは4人の高校生。永島敏行、森下愛子など。森下愛子がしっかりと脱いでいて、永島敏行が主人公だ。キャストが絶妙で、寮友役の若松武史、母親役の島倉千代子、ヤクザの峰岸徹なども、なんとも言えない存在感があった。



一度だけ、生前の寺山修司を見かけたことがある。僕が新宿の紀伊国屋書店に出かけた時、偶然にエレベーターで一緒になった。変な顔をしている男性だなと思った。三人くらい若い女性を連れていて、彼女たちはモデルみたいにスタイルがいい。その中にわりと身長の低い、小男の寺山修司がいた。一種異様な雰囲気が漂ってました。いやぁ、妖怪みたいでした。ジョージ秋山のデロリンマンを思い出した。デロリンマンも久しぶりに読みたいですね。知らないか、みんな。



彼と会った後、『田園に死す』『書を捨てよ。町へ出よう』を観たが、やっぱり変だった。監督としての彼はやはりアート寄りである。しかし、『サード』は脚本だけを担当しているので、彼ならではのリリシズムと暴力の入り混じった物語になっている。売春と殺人事件を題材にした少年院での話なので、暗いんだけど。



でも、この映画の面白さというか怖さは、普通では非日常的なことが日常の延長線上に描かれているところでもある。「まるで大根を売るみたいに売春をする」という表現が映画の中にあるけれど、僕たちが考えている以上に売春も殺人もすぐそこにあることを再認識させられる。



ATG映画はそんなに観ることができないので探してください。DVDにもなっているし、最近ではネットでも観ることができる。衛星放送でもやってるらしい。いま観て面白いかどうかは疑問だけど。でも『サード』は若いうちに観るとやはり心に刻まれるはずである。



初出 「西参道シネマブログ」 2006-01-11



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