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『新卒で訪問リハへ』問題には、どこか違和感があった

なんか、今更すみません。

先月くらいにリハ職の中で燃え上がり、それからしばらくも燻っていたこの問題。議論を伺ってみたが、なぜか腑に落ちない部分があって実はすごく真剣に考えていた。ちなみに同じテーマで各所で議論が展開されていたそうだけど、全て拝聴しているわけではないので悪しからず。

わたしは最初、回復期の病院に就職した。病棟での勤務を経験して訪問リハ、外来リハの担当になり、退職後に勤めた一般病院では、院内と訪問リハの兼務だった。そして、今は訪問看護で働いている。特に秀でたものはないけれど、「訪問リハという仕事が好きだ」という気持ちだけは負けないわたしが色々と考えて、なんとか納得できる結論に至ったので忘れないように書いておこうと思う。

最初に断っておくけど、これは誰かを批判するためのものではない。結果的に誰かの考えを否定してしまうかもしれないけれど、そう感じたのならごめんなさい。もしもそう感じてしまったのなら、わたしみたいな理学療法士界隈の末端構成員の言うことなんてどうか気に留めず、どうか、どうかもっと世のために人のためになることに尽力なさってください。大丈夫、あなたは正しい!

世の中には、正解のないことがたくさんある。そんなとき、わたし達にできることは、禿げるまでそれに悩むことなんかじゃなくて、納得することだ。納得するためには我を通さなきゃいけないし、我を通すためには強い呪術師にならなければならない、と伏黒恵も言っている。だからわたしも強い理学療法士になれるように、自分でこの問題に納得するために、ちょっと書いてみようと思う。

前置きが長くなった。

『新卒で訪問リハ』の何が悪いの?

この問題の1番の論点は「リスク管理ができない」だったように思う。たった一人で対象者の自宅に伺い、医療職は自分しかいないという状況で、目の前の人に重篤な問題が起きてしまう。そんなときに、病院など人材が充実した場での対応を知らない新卒療法士は、何も対処できないのではないか?対処できるできない以前に、異変に気付くことすらできないのではないか?

結論から言わせてもらう。

そんなものは、病院で何年経験を積んでいようが、できない奴はできないし、もっと言えばできないときはできない。この問題はそもそも論点がずれているのだ。

やる気云々の問題もあるかもしれないが、やる気があっても気づけないときは気づけない。わたしだって、見逃してそのまま退室してきたこともある。自分で思っているよりもあると思う。曖昧な表現になるのは、在宅リハにおける異変が多彩であること、そもそも各個人の生活がシステマティックではなくバリエーションに富んでいるためバイタルサインだけでは異変には気づけないこと、たとえ異変が起こっていてこちらがどんなに大騒ぎをしても本人や家族は気にも留めていないこと、とまあ、枚挙にいとまがない。

転倒したエピソードは隠蔽されがちだし、運よくキャッチできたとしてもどこをどう打ったのか、明確に証言されることは少ない。頭を打ったのかどうかを聞きたくても、さっき転んだならまだしも1週間近く日数が空いてしまえば、どこを打ったか正確に聞きだすのは至難の技だ(そして聞き方にも技術が要る)。熱が出たけど勝手に下がったのは、頓服を飲んでいたからなのだけれど、「薬を飲んだ」というエピソードは綺麗に忘却され、「やっぱり〇〇のお茶は効くねぇ」みたいな話にすり替わる。

対応も多岐に渡る。

救急搬送は最後の手段であり、大切なのは救急搬送を選択しなかったときにどう行動するか、対象者や家族にどう行動してもらうか、なのだ。かかりつけ医はどこか、大きな病院なら連絡は難航する、訪問診療ならすぐに来てくれる(かもしれない)、近所にあるクリニックなら誰がどうやって連れて行くんだろう、受診できない場合はどうしたらいいんだろう。

異変をキャッチした瞬間に、こういうフローチャートをすぐに頭の中で組み立てる必要がある。すごく大変だ。すごく大変だから、最初にある程度シミュレーションして関係機関で共有しておくのが望ましいけど、時間が経てばみんな忘れるし、いつの間にか指示書を出す医療機関が変わっていたりする。情報共有とひとことで言ってしまうのは簡単だけど、それにかかるコストは計り知れない。

ここまで整理して改めて思う。「大切なのって、新卒かどうかじゃなくないですか?」と。

じゃあ、何が大切なのか?

少し話が戻るけど、『新卒で訪問リハ』問題のとき、「在宅の現場で最初に習うのは“名刺交換”と“挨拶”だ」みたいな意見があって、それに対しても低レベルだとか、そんなの初歩だとか、特級呪霊かと思うくらいおぞましい怨念が漂っていた。

誤解を恐れず言わせてもらうなら、“名刺交換”と“挨拶”は未経験の人がいちばんイメージしやすいように出された例であって、ひたすら名刺を交換し合う訳でも、BOOK OFFの店員よろしく従業全員が一同に介して延々と挨拶の練習をしている訳でもない。これは『接遇』の話だ。

①で救急車を呼ばなかった場合にどう動くか、が重要だという話をした。じゃあその先、たとえば今日中に受診してくださいとか、〇〇先生に電話してくださいとか、本人や家族に動いてもらわないと解決できないことが多くある。そんなとき、日頃から信頼のおけるスタッフから言われるのとそうでないのとでは大違いであるのは言うまでもないだろう。

でもこれ、簡単なことじゃない。

どんなに足が浮腫んでいても、どんなに転倒してぶつけた箇所が赤黒く腫れ上がっていても、自分が「問題ナシ」と判断したなら、いつまでも放っておける人もいるのだ。そしてそれは割とたくさんいるのだ。

だから、わたし達がいる。バイタル、浮腫、痛み、皮膚の変色エトセトラ…、それらを、いつ、どこで、誰に、どんな風に伝えて欲しいのか、瞬時に判断して決断し、相手に伝えるのは訪問リハに訪れたセラピストの役割だが、問題はその伝え方なのだ。

想像して欲しい。なんか頭痛いけど、薬飲んで頑張れば、まあなんとか出かけられそうな気がするとき、信頼している誰かから「行かぬべきだ」と言われるのと、さっきゴミ捨て場で会った近所のおじさんから言われるのとでは、どちらが「行かない」決断ができるだろう、と。

よく“名刺交換”を例に出すと、一般企業の営業職なんかと比較されるけど、実はここも少し違う気がしている。訪問看護は在宅生活を守るために存在する。どんなに懇切丁寧に対応したところで、跳ね返す人は跳ね返す。そんなとき、何かのセールスなり営業なら「はい、そうですか」と引き下がるが、こちらはそうはいかない。単なる一丁目一番地だが、ここでしくじるとそれから先、その人に対して必要な医療や介護が一生届かなくなってしまう可能性がある。リーチできる範囲が少ない分、重みも異なるのだ。

まとめると、どんなに異変に気づいても、信頼されていなければその先には進めない。理学療法士という国家資格も、在宅の対象者には単なるお飾りに過ぎないのだ。そんなんとき、できる限り相手にとってbetterな行動が取れるよう、普段から適切な関係を築いておくのが望ましい。

これは簡単なことじゃない。この簡単じゃないことを、できるだけ万人が簡単に行えるよう、訪問リハに従事するとマナーや接遇について講習を受ける。言ってしまえばこれは、先人たちが築いてきた叡智だと思う。誰かにとっての“簡単”は、誰かにとっての“とても難しい”なのだ。だからこれを鼻で笑われた時は、内心ちょっとムッとした。

新卒で訪問リハを考えている人へ

じゃあ、結局この問題はどこに終着するのだろう?

新卒で訪問リハ、わたしが学生の頃はタブー中のタブーだった。この先ずっと理学療法士として働きたいなら、まずは病院、しかも急性期!が合言葉みたいになっていたような気さえする(じゃあなんで、わたし回復期に就職したんだろ)。

でも、もう時代が違うから、もしもあなたが本当に訪問リハで働きたいと思うなら、行ってみたらいいと思う。いきなり同行訪問なしで「いってらっしゃい!」の職場であれば、むしろそれは組織に問題があると思うし、そんな職場ははっきり言ってない。その辺は実際に新卒採用している職場の人に話を聞いてみたらいいのかもしれない。「逆に病院で〇年やってるから大丈夫!」という方がよっぽど危ない、というのは個人的な考えだ。

リスク管理に不安があるなら、まずは職場の先輩、リハ職だけでなく看護師や医師にも相談を。それでも不十分なこともあるだろうから、セミナーや本での勉強は必須だろう。リスクアセスメントのセミナーはリハ職向けのものよりも看護師向けの方が実践しやすいし、赤信号を見落とさないトレーニングにはもってこいなのでオススメです。

それから、老婆心だけど在宅リハはリスク管理だけできればいい訳ではない。訪問リハは「生活を広げる」役割を担う。相手がどこでどんな風に生活し、そこに至るまでどんな人生を歩んできたのか。それを主軸に置かないと、途端におかしな話になる。

どこに行ったって、学ぶ意欲のある人には損がない。それが訪問リハの仕事なんだと思う、

逆にいうと、言われたことをきちんとやって、それで勝手にスキルアップしていくような職場がいい、という人には、訪問リハは向かないのかもしれない。やる気がある云々じゃなくて、自分で調べて始めてが苦手な人って結構、いると思う。新卒の時のわたしなんて、まさにそれ。

そういう人には進めないけど、そうじゃない人なら飛び込んできて欲しい。そうして新しい風を吹かせて欲しい。きっと大丈夫、若いんだからいくらでもやり直せるし、やり方だっていくつもある。おばさんは遠くから応援してます。


気づいたら、こんなに長くなっている。なんだかまとまったようでまとまらなかったなぁ。

要約すると、「新卒かどうかなんて関係ないし、逆を言えば病院の経験があるから大丈夫なわけが無い!」、というのがわたしの意見です。もしも最後まで読んでくださる方がいらしたら、ありがとうございました。



読んでいただきありがとうございます。まだまだ修行中ですが、感想など教えていただけると嬉しいです。