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本土寺を主として

また私小説のようなことをしてみる 市井の暇
人に私小説は成立するか というより小説とし
て書く文なのかこれは 今年の夏の初なから
盛夏にかけて 甲虫の類が今年は四匹我が家
に発見された 私は昆虫少年のなれの果てな
見つければ飼う 妻と娘は触れないが見るのは
まんざらでもないようで 特に娘は今年かぶと
むしの雄に気をよくしていて テーブルの上で
昆虫観察ケースに見入ったりしていたが 十一
月も下旬の晴れた日 とうとう虫は寿命をまっ
とうした 自然にいた場合ニ三カ月で生涯を
終えるとのことなので 見つけてから五カ月ほど
生きたのは虫にとってはどうあれ 娘にはそ
れなりの愛着を抱かせたようだ 今年見つけた
のはのこぎりくわがた雄二匹 こくわがた雌一
匹 かぶとむし雄一匹だった ここ数年毎年
見つけている マンションの廊下は電燈が常夜
なので意外に虫が寄ってくる 毎年かなり見る
小粒の青どうこがねは今年はほとんど現れず
そのほかには粉ふきこがね かなぶん 薄い
クリームグリーンの大きな蛾を確認した 多分
暑すぎたのだろう夏は

こちらのサイトでいいねをいただいた方の記事
を眺めていたら本土寺の写真を見つけた こちら
の地方では紫陽花寺としてそれなりに有名な所
そもそもそのあたりの地は近世には一大観光
名所として東の横綱だったらしい 今でいうディ
ズニーランド的な 将軍の鷹狩地だったとのこと
だが それがなぜ観光名所なのか 歴史につ
いて知識無い私からすればどういうことか知ら
ないが マツモトキヨシの出生地でもあり きよ
しが丘 という地名もある 友人が住んでいる

まだ子が幼い頃 ある日曜に本土寺に行った
季節としてはやや風がはだざむくなるものの
樹々が紅葉するまでにはならない時期だった
か 何度か入り口を違えたうえで参道のはじ
まりにある駐車場に車を停めて ニ三分ほど
ある参道をベビーカーを押して行った 途中に
漬物屋が一軒あって店はそこひとつのみ 

門のところに受付があったが無人 恐る恐るそ
のまま入門してしまう 十五年ほど前の事だか
らもう時効だろう そこからの道順はよく覚えて
いないが 当然紫陽花は咲いているわけもなく
丸くかたどられた庭に行きついて 円形という
からは中が丸く空いているがその中が何だっ
か 単なる草叢だったか 紫陽花の低い群生
だったかこれもまたよく覚えていないのだった
そこは半分以上円を竹林をくりぬいて造園され
ていて 転々と木のベンチが置いてあった と
なれば紫陽花が円の内部に植えられていたの
だろうと考えるのが自然だが覚えているのは
高く伸びた竹の梢がゆるく内側にお辞儀しなが
ら上空に揺れていたことと異様な 静寂と 

それからしばらく経って山梨県の西湖でも同じ
物を見た といっても竹は円形に生えていた訳
ではなく湖の沿道からせりださんばかりに斜め
胴太く伸びていたが 季節は春で しかし竹も
まだ枯草色で 空高く伸びるままになっていた
がそこにとんびが回転していた 本当は鷹だっ
か隼だったかもしれないが現れては遠ざかり
いなくなったと思ったらいつの間にか旋回する
岸辺で薄い金色の死んだわかさぎを幼い娘が
木の枝でひとところに集めて これから始まる
ここでの一人暮らしを眩い水面の縁にいて不条
理だと思いながら淡く憂いたことがあった

FBで高校の同窓生が本土寺を訪れたと投稿
していてそいつは私の出た高校のその同期の
代表みたいな顔をしていて気に入らなかった
お前が過ごした高校と私が過ごした高校は同じ
高校だとしてまるで別物だと思った ぱっとしな
い高校ではあったが私は私なりにあの高校が
好きだ けれど それはあいつらに代表される
スポーティーなものではなくて もっと夜の匂い
と森と水辺の匂いがする幻想的な高校のあり
ようだ 細くて暗い家の点在する雑木林のなか
の細い坂を登って 自分の夜でも明るい町に
帰っていくのが好きだった

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