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魔女

中学の時 しゃべらない女子がいた
完全にしゃべらないわけではないが
基本的にはしゃべらない
先生からあてられた時にはか細い
声で答えを言う
先生もとがめだてはしない
無口なんだな と思った
魔女のような顔をしていた とんがり
帽子をかぶせると似合うと思った
赤い顔色をしていた
場面緘黙なんてことばは知らなかった
子供がそれで 初めて知った

ある日隣の席に来た
別に気にせず話しかけた
頷いたり くすくす笑ったりはする
訊けば聞いたことには小さい声で
短く答える おそらく積極的に話しかけた
のは私が最初の方だった
基本的には隣の女子には
誰にでも話しかけた つまり
調子に乗っていた

話しかけてはみたものの 特に
好意などは抱かなかった 何で
話さないんだろうと思っていたこの
魔女は 神秘的な感じでもなく
限りなく地味で存在が薄い
特に勉強ができるわけでもない
しかし 私と言う人間はこういう存在に
こそ燃えるのだ 純粋に自分を
満足させるために 話しかけ
質問し 冗談を言い 物まねをした
物まねが流行っていた

ある日彼女は命を絶った

なんてことが起きるのは作り話を
展開させるためで 人は簡単に死ぬし
死なない
多分女子高に行ったのではないか
私は我が家のならいに従い
公立高校へ進学した
希望の高校へは行けなかったが
それから数十年後 娘がリベンジ
してくれた

その魔女に最後に会ったのもかれこれ
四十年近く前の話だ
クラス会に来たのだ
あんなにしゃべらず 影も薄かったのに
あの魔女みたいな顔のままで
美術大学に行っていると言っていた
相変わらず無口ではあったが
静かにビールを飲んで赤い顔でうつむいていた
ああなるほど
うーんそうか どこか違っていたのは
そういうことか などとみんなが
納得していることが どこかしら
つまらなかった
単なる陰気な女に見えた
全く興味が起こらなかった 私を見てぱっと微笑んだ           ようにみえたが私はビールをかざすしぐさで済ませ           話しかけることもなかった


仲が良かった連中たち(男女取り混ぜ)で飲みなおし
朝までうだうだ尽きもせずしゃべった
当然そこには魔女はいなかった


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