確定申告というのはいつも気分を陰鬱にさせる
が一度手をつけてしまえば割合あっけなく終わる
経費の計上とかそういったところをきちんとすれ
ばもっと煩雑なのだろうけれど株式で使った
PCの電気代などどのように線引きをするのか
もわからず　特段関連書の購入もしない　経験
と勘　それで順調ならばそれはもはや匠ならぬ
巧と言え当然そうではないからきりきりしながら
何とか帳尻を合わせているというのが現状で
あり

その勢いでこれまた雑物に埋もれたプリンター
をどうこうして申告書を刷り上げた　電子申告
に手を伸ばしたがカードリーダーで挫折して
十年を超えて　何だか今色々簡単なようだが
すっかり原始一歩手前　原始とは手書きで毎年
税務署の脇のプレハブで主に年配者が紙と格闘
しざわついている　それを尻目に申告書の提出
は十人足らずの順番を通りすんなりと終了した
その後　自転車で隣町に焼き鳥と古本を買いに
行こうとして　車道と歩道の段差で転んだ

私の家における居場所は物とソファに囲まれた
細長い半畳ほどのスペース　コックピットと自称
している跨いで入る式のところなので足があが
らず曲がらずのおそらく骨折はしていないしかし
生涯最強クラスの強打で痛めた膝ではPCもさ
われず　ここ二十年程度の間でほぼPCにさわら
ぬ一日を思いがけずに過ごすこととなった　それ
でデジタルデトックスなどと　快適でスローな
ライフだ　などと悟るわけではなく　単純に非常に
不便で　特段重要な連絡も無いのにメールや
SNSが気になり　有り余る暇もろくにつぶせず
折り畳み式アウトドアチェアーをわずかに残った
リビングの平面に広げて踏み台昇降用のトラン
ポリンと称した低反発ウレタンの台の上にふがい
なく足をのばして仕方なくテレビをひたすら凝視
していた

転倒した時に若い母親とちいさい娘が脇をとおり
かかっていて　というか彼女らを避けて歩道から
車道におり　再度歩道へ乗り上げようとしてタイヤ
が段差を乗り越えきれずにバランスが崩れた
という訳なのだったが　無様に尻もちをついて
膝を本来曲がらない方角にかなりの強さで瞬間
伸ばしてしまって　その尋常ではない痛みに
悶絶していると　だいしょぶですか　と切迫した
声をかけられて　うめき声交じりにだいじょうぶ
です　と答えると　きょとんと手を惹かれた女の
子が多分あれは興味と椿事に心を湧き立たせ
たような何というかほんのりと歓喜の目でこちら
を見返してくるので　力なく彼女に手を振り　だい
じょうぶだよ　と問いかけると母は私たちはあ
なたとは何のかかわりもない　勝手に転んで
迷惑だとでも言いたげな様子でさっと子を促して
足早に現場を去って行った　悶絶しつつその
急ぎ足の行く手を見守っていたが母子はこちら
を二度とは振り返ろうとしなかった

内的な因果関係を胸うちに感じるものの直接
な物理的因果関係は彼女らと私の転倒には
ない　と書いてみてこの書き方だと母子と私が
一緒に転倒したように見えるとも思った　と同時
に巻き込みが生じ得たかもしれないという思いと
いや　すれ違いによって生じた転倒だからこちら
とあちらには逆の方向性があってそれなら離れ
る方向に巻き込みは生じようがないという否定
が書く考えの中でとんとんと交差している　それ
は転倒という物理から生じた二つの考えでひとつ
の現象からいくつもの考えが生じることはあり
ふれたことではあるなと思いつついやそのよう
にありふれているとすんなり思う　そのすんなり
というのはもしかしたら思考の私的な癖なのか
もしれない　とすればそれは生まれついての癖
なのか後天的な経験並びに学習によるもの
なのか　などと暇が暇を呼ぶように雑考が雑考
をよび　暇がそれを言葉に押し込めていく

何かを書きだそうとするときに書き手は身構えて
格好をつけてしまうからそこをニュートラルに自然
にすることが重要だとまだ若い文筆家が呟いて
いた　その実践として書き始めてみて恰好をつ
けないことと内容がない事は全く別の話だと思え
てきた　何かが書きたくて書くというところではな
いところから書きはじめたいという気持ちで書き
始めてそれは気持ちを書いていくということでは
なくて書きたいという気持ちから書き物が書か
れるという事だから内容がどのように表れてくる
のか自分でもわからないままの見切りで書きだし
ている　その衝動を心にいつも絶やさなければ
つまり文章はいつでもどのようにでも長くも短くも
幾らでも書けるはずだった　それが他読に耐え
うるものか　人の歓心を得るような物か　そこに
はそのような他からの目が無視されているかと
言えばそうとも言えないところが不純だとも思う
突き詰めれば読まれたいから書いている　誰に
も読まれないと想定して書いているわけではない
そのほのかな制約みたいに勝手に感じている
ものがなければ多分単なる指の運動ばかりが
なされ　しかし単なる指の運動たる書き物という
のもどのようなものか読んでみたかったりもする