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記憶の桃

そのバスは廃止されたんですよ
とバス停に人が待っていれば 声を
かけたかったが
バス停には誰も待っていなかった

柑橘の生っている木の横を歩いて
庭に果物を植えるのは品がない
という人もいるよ と
話しかけてみたかったが 誰も横
歩いていない

あの階段の上の茂みに紛れて
桃がしだれて咲いていた
今は枯れてしまったようなので
記憶の桃を補いつつ見た

変な やけどしそうなキノコ
花はそんな咲き方をしていた
とろりと汁ごと
垂れさがっていた

道の真ん中に立っていて邪魔
かと思えば誰とも
すれ違わなかった
大きな貝のようなもののなかから
内蔵そっくりの孤立を吐き出した

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