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『余命10年』

◆あらすじ◆
20歳の時に数万人に一人という不治の病にかかり、自らの余命が10年であることを知った茉莉。避けられない死を静かに受け入れるため、もう恋はしないと誓っていた。ところがある日、同窓会で再会したかつての同級生・和人に思いがけず心惹かれていく。やがて、会うべきではないと思いながらも、和人との距離が縮まっていくことに喜びを感じていく茉莉だったが…。


この手の作品はあまり観ないが藤井道人監督がこの題材をどんな風に描くのか興味があり鑑賞。

なるほど、藤井監督の映像の妙技が要所要所で実に美しく発揮された作品だった。

下手すれば100歳まで生かされる時代なのにそんな最先端医療でも手出し出来ない領域がある。
日進月歩な医療の世界、でも医者の放つ「いつ良い治療法がみつかるかわからない、頑張りましょう」の言葉に嘘ではないが信憑性は皆無だ。

今作で重要なのは主人公が言う【10年が決して短くもなく長くもない】と言う所だ。
そして好きな相手に病気の真相を明かすか否かと言う葛藤。

その10年をどう生きるか?の問答がどう生きたか?に繋がる展開が去る者と残される者の繊細な関係性と想いで満たされているのが良い。

勿論、複雑な想いの起伏を抱える恋人の和人を坂口健太郎が繊細に演じてるし、奈緒演じる親友で退院後も繋がりを深め最終的に茉莉の才能を開花させる沙苗も素敵だった。クラス会で周りに馴染めない茉莉と和人を引っ張る役目のタケル、2人にはこう言う潤滑油的人材が必要だったよね。
彼等の関係性が沈みがちなこの物語に躍動を与えてる。

そして長くても10年後には娘を見送らなくてはならない両親。
身体を心配するも娘の自由を奪う様な煩さは封印。そっと寄り添いいつも通りに接する切なさを表現する母役の原日出子、親とは違う立場で妹に当たり前の日々を送らせようと気丈に振る舞う姉役の黒木華。

どの配役も主役級のキャスティングで安心感有り捲りなんだが、その中でも寡黙ながらも絶えず娘を思い遣り憤りを噛み締める父親の姿に凄く共感してしまった。
松重豊と言う俳優のナチュラルで懐の深い演技はホント素晴らしい。

そして、病が進行する中での茉莉のヤツれて行く姿…小松菜奈の減量がなんだかリアルに痛々しくてズキズキしたなぁ。


でも、若い二人がお互いの気持ちを育む貴重な瞬間瞬間にややファンタジックな映像効果を加える所に監督の【今、生きている】と言う表現の拘りを感じてその美しい演出に救われる。


ただ、世間が大好きな"泣ける泣けない"の基準で言えば元々自分が【生】に執着が無いせいか小松菜奈ちゃんの『居なくなるシリーズ』(勝手に作るな!)なら個人的には『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の方が数倍泣いたなぁ・・・と思ってしまった。
コチラは【死】がテーマでは無く時間の逆行と言う複雑なテーマだったのが自分には合っていたのかも。

まぁ、正直RADWIMPSの「うるうびと」よりBACK NUMBERの「ハッピーエンド」の方が好きだしな。

「ハッピーエンド」


が、今作は実話とフィクションの狭間の交錯が感じられるのでどんな年齢の人もいつかは訪れる【死】と言うものについて向き合う意味を見出せると思う。

ただ、ひとつ納得いかないのは姉が提案する【肺移植】に関して、結構諦めスルーな感じなのは如何なものかと…。
生きたいなら可能性は最大限調べるべきかと思うのである。


と言うわけで役者のチカラと映像演出が引っ張る号泣はしない程度の作品でした。


2022/03/05


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