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『流浪の月』

◆あらすじ◆
10歳の少女・更紗は、引き取られた伯母の家に帰ることを躊躇い、雨の公園で孤独に時間を持て余していた。そこに現れた孤独な大学生の文は、少女の事情を察して彼女を自宅に招き入れる。更紗は文の家でようやく心安らかな時を過ごし、初めて自分の居場所を手にした喜びを実感する。しかし2ヵ月後、文は誘拐犯として逮捕され、2人の束の間の幸せは終わりをつげる。15年後、恋人の亮と同棲生活を送っていた更紗は、カフェを営む文を偶然見かける。事件のせいで辛い日々を送ってきたであろう文のことが、どうしても気になってしまう更紗だったが…。


⚠️完全にネタバレ。

"真実"は都合よく創り出せるが"事実"はひとつしか無い。


だが彼等の非力さはその事実を見ようとせず自分達の価値観ばかりを振り翳す多数に捩じ伏せられてしまう。

自分は果たしてその事実を知ろうと努力する視点を持てるか?
更紗が勤める店の店長の言葉が脳裏に残る。

挿し込まれる文(フミ)と少女の更紗二人のシーンが心を温かくする。
その二人を演じた桃李と玉季ちゃんが凄過ぎて先入観ばかりの世の中が本当に浅はかに見える。

ただ成長した更紗には思う所はあるぞ。

結局、お互いにあの穏やかな時間が育んだ想いが忘れられずに居たから、引き裂かれたと言う想いを抱え続けていたからあのラストに至ったが観ている途中何度も(大人)更紗の感情に任せた行動には疑問を感じた。
彼女がそうする事で絶対に過去が掘り起こされ、そうなれば文はまた新しく刷り直した犯罪者のレッテルを貼り直されてしまうから。
それだけは避けて欲しいとずっと祈りながら鑑賞してしまったわ。

親の愛を受けずに育ち、或る意味未熟な彼らに押し付けるが如く湧き起こる幼女の置き去り。
私の祈りも通じず、この件(くだり)が彼等を闇に紛れながら生きなければならない【流浪の月】にしてしまった。

この結末を二人が一緒になれて良かったと思う事も出来るがそれは手放しで喜べるものでは無い。
偏見や思い込み、先入観に支配された世間から彼等が隠れなきゃならない事は絶対にあってはならない。

更紗が『子供だった自分が警察で本当の事を明かせず"失敗"した』と後悔で嘆くシーンはとても心が痛む。
そして文もまた誰にも言えない・・・特に一番心を寄せる更紗には絶対に知られたくない秘密があった。

秘密と言えば横浜流星演じる更紗の彼氏は登場した瞬間からヤバい男だと思ったな。
過去の失敗から自分の本性をひた隠しにしてたんだろうがいざ彼女が自分の思い通りにならない兆しが表れると暴力的になる如何にもDV野郎だ。
その描き方も演じ方も良かった。彼はこういう役が嵌る。日曜劇場『DCU』の時よりずっと活き活き演じてた様に感じた。
そこからあの親戚の女の子の告発に繋げる辺りは結構憎い展開だったと思う。原作通りなのかどうかは分らないがこう言うちょっとした嫌味の効いた部分大好きだけどね。

今作に描かれるDVも小児性愛も或る種の病気だが文(フミ)が抱えていたのは全く違う病の傷みだった。
文は決して小児性愛などでは無く二次性徴の来ない類宦官症(るいかんがんしょう)或いはカルマン症候群と言う病気の様だ。(当社調べ)

彼がラストで全裸を晒すんだがもちろん全てを明るみに出すわけでは無いからちょっと解り辛い所もある。文の母親との会話とこのラストがちゃんと結びついてその暗闇に僅かに映される彼の肉体に気付かなければ「????」な状態かな?
この描写は難しいわ。

でもこれで原作読みたくなるかもね。  

大人(世間)は自分達の都合のイイ様に子供の発言を誘導する。彼等(抑圧する側)にしてみれば子供の発言など信用に値しないのだ。

ちょっと『万引き家族』を思い出した。  

このラストに納得してはイケナイ気がするのはワタシだけだろうか?もちろん彼等が選択した道なのだからとやかく言うのは野暮かもしれないが彼等に貼られたレッテルを少しの痕も残さず剥してあげたいとどうしても思ってしまうのだ。

だからせめて自分は偏見に加担しない姿勢で居たい。

2022/05/25

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