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宇宙人ビンズと小さな厄災

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


ハロー諸君!私の名前はベーリッヒ。今相棒のビンズと共に宇宙に浮かぶ、いわゆる宇宙基地の三十惑星表彰式に出ている。我々の故郷、惑星テコヘンをはじめとする三十惑星の科学者や軍人など様々な要人が出席している大イベントだ。参加者は500人超、料理もビュッフェ形式で盛り沢山、ビンズは料理とナンパ目当てでこのイベントについてくる。私は僭越ながら論文を出させてもらった。前回は優秀賞だったから、今回は最優秀賞を取るつもりだ。審査員長が皆の前に出て、ついに最優秀賞の発表をする。ビンズは隣の席で生ハムメロンをただ頬張っていた。

皆様、それでは研究論文の最優秀賞を発表したいと思います!今回の最優秀賞は、惑星テコヘンの惑星調査団団員、ベーリッヒ君に決まりました!「宇宙恐竜化石を使用したエネルギー燃料転換」の論文は我々三十惑星のいかなる文明にも活用できると判断された事が、最優秀の決め手となりました!ベーリッヒ君、トロフィーを授与しますのでこちらへどうぞ!

え、マジで!おい、ビンズやったぞ!生ハムメロンを食べてる場合じゃないぞ!私が最優秀賞だ!ビンズ?あれ、我が相棒は先程まで隣にいたのだが。私が審査員長達の方を見るとビンズが凛々しい顔でトロフィーを受け取ろうとしていたが、審査員長にすぐバレていた。なんで前回もやった事またする?次やったら鉄板芸になるからやめてくれ。私はその場からビンズを離れさせ、照れながら前に出る。

えー、本物のベーリッヒでございます。

会場、ちょうどいい感じでウケる。その後は緊張しながらも研究に関する色々なお話をして審査員長からトロフィーを授与される。やったぞ、これを貰うことをどれだけ望んだか。ちなみに、嬉しさで涙ぐむ私は審査員長からこんな質問をされた。

研究には宇宙恐竜が大量にひしめく惑星ザルスに行ったと書いてあるが、なんであんな危険度高い星にわざわざ出向いたんだい?他の星にも化石ぐらいあるだろうに。

その質問に会場は興味津々。向こうで生ハムメロンを食べながらニヤニヤするビンズ。焦る私。なんだよ、嬉しさで泣いて終わる展開でしょうが。今の質問で涙腺が停止してしまった。言えない、ビンズが恐竜肉を食べたいから無理矢理付き合わされたなんて。言えない、ビンズが作った特製ビネガーソースがやたら肉にマッチしていた事実を。まずいな、ビンズのおかげで化石の採掘がこれでもかと捗ったのは事実だが、これを会場で言うと「きっかけは焼肉!?」って記事とか出回りそうで嫌だ。私は冷や汗をかきつつも一言。

全ては、未来を築くために!

会場拍手喝采!それを見てショートケーキをニヤニヤしながら貪るビンズ。脚色とはこういうことを指すのだと悟る私。はぁ、お腹痛い。


その後、会場で私はオズマンとケーキを食べていた。オズマンは同じテコヘン人で科学者だ。残念ながら彼の研究は受賞しなかった様だが、嫌な顔せず私を讃えてくれた。

ベーリッヒ、君はテコヘンの希望だよ。いつも危険な場所に行って色んなことを学び、全てを役立てようと誰よりも努力している。その賞は君が受け取ってこそ価値がある。

そんなことは無い。ここにいる誰が受け取ってもおかしくはないさ。君の研究だってそうだ。バイオキノコの胞子を使った特効薬研究は成功すればありとあらゆる病気を治せる。私がこのイベントで唯一の不満があるとすれば、君の研究に誰も関心を抱かなかった事だ。

ベーリッヒ、君はとても優しいな。安心してくれ、僕は君に嫉妬の感情なんて抱いたりしてないさ。君と会った時から応援してるし、誰よりも憧れている。だからこうやって、君とケーキも食えるし、また明日から研究に励めるんだ。

オズマンは本当に優しいな。この言葉は澄んでるくらいに本物だ。私が彼と研究話をして嫌な思いをした事なんて万に一つもない。そうだ、今日出席するはずだったジュロロン星人のカージャルもいるはずだ。彼とも仲がいいし、甘いものが大好きなやつだ、一緒にケーキを食べよう。私とオズマンはカージャルを探したが見つからなかった。そういえば今日は姿を見てないな。もう帰ったのだろうか。


パーティが終わった後、私は与えられた宇宙基地の一室で一泊する事になりトロフィーを黙ったまま眺めていた。長年の夢が叶った。思えば子供の頃から極貧生活を送り、学者になる夢を持ち調査団の研究団員としてどこぞの問題児とコンビを組んで危険を渡り歩いた。今私の隣でジュースをひたすら飲んでいるビンズがそれだ。なんだ、生ハムメロンの食い過ぎで喉が渇いているのか?いや、そんな事より、自身の研究がいつの間にか多くの人に知れ渡る様になり、多くの研究に貢献してきた。その報酬がこのトロフィーか。とても嬉しいんだ、だけどこのモヤモヤはなんだろうか。オズマンや他の皆んなもトロフィーを貰うべきだと思ってしまったからだろうか。自分でもわかるほどの辛気臭い顔をしていると、ビンズが紅茶缶をくれた。お前、パーティでジュース貰いすぎじゃないか?まだ20缶近く残ってるぞ。全く、遠慮というものを知らんな。私が紅茶を貰い開けて飲むとひどい味がした。げぇ、ジュボルン星の紅茶か、どうりで不味いわけだ。三十惑星の要人が集まれば、そりゃテコヘン人には合わない食い物もある訳だ。私は部屋にあったスティックシュガーを缶に何本か注いで飲んだ。お、砂糖を入れたら美味しいなこれ、しばらく飲まなくてもいいけど。私がパソコンでメールを確認しているとジュロロン語のメールが一通。差出人の記載がないな、メールも大半が破損している様だ。私が現段階で読める部分を解読すると以下の文字が判明した。

隕石、寄生、時間差、糖。

なんの話だ?これ以上は読めないな。送った機械が壊れていた可能性があるな。とりあえず修復ソフトで出来るだけ洗い出してみよう。時間はかかるが後でマシになってるはず。その時だ、部屋の外から爆音がしたのは。我々はジュースを置いてすぐさま確認をしに行く。


我々が駆けつけると宇宙基地の天井には小さな穴が空いており、職員が補強作業に入っていた。一方学者達はその天井を突き破った何かを観察していた。どうやら本当に小さな隕石が衝突したらしい。ビンズはそれを見てガッカリする。

なんだ、怪獣とかの襲撃ではないのか。

お前なぁ、惑星調査団は銃をぶっ放す団体ではございません!私もとりあえず隕石を学者達と観察する。見た感じ手のひらサイズで、基地の照明にも負けないくらいオレンジ色に光ってる。熱いとか冷たいとかもなく。温度が無いのは珍しいが、それ以外は普通の隕石っぽいなぁ。私や他の学者達も機械でスキャニングしてみたが、特別な反応はない。1人の学者がただの石だと判断してその石を掴もうとした瞬間、それは輝きを失い煙の様なものが辺り一面に噴射された。だが、誰一人体に異常が起こる訳でもなく、その石は職員の手によって捨てられた。私とビンズも煙を少量吸い込んでいるが、何も異常はない。他の異星人達もそうだ。皆人騒がせだとつぶやきながら部屋に戻っていく。


その後、我々は部屋で眠りについていた。妙に寝付けない。うちの相棒は恐ろしくいびきをかいて寝てるというのに。おかしいな、こいつのいびきなんて慣れっこなのに。私は部屋の冷蔵庫からジュースとサラミに生ハムを取り出した。あれ、無意識だったか。あれだけさっき飯を食ったんだ、夜食はいらないだろうに。私はさっとサラミと生ハムを冷蔵庫に戻した。結局ジュースだけ飲みながら、また眠くなるまでパソコンでもいじっていようかと思い立ち上げると、先ほどのメール修復が終わっていた様だ。私がそれを確認するとこう文面にあった。

オレンジの隕石に気をつけ、、、寄生生物は小さい、、、時間差で成長、、、糖が、、、。

どうやら修復ソフトでもこれが限界らしい。オレンジの隕石?なんか、嫌な予感がするぞ。もしかして、私が今起きた事と何か関係があるのか?私が自分の体を機械でスキャニングし、パソコンのモニターに移すと、ごく小さな胞子の様な菌が体の中にいる。そしてその菌同士がゆっくりではあるが確かに形作られている。馬鹿な、さっきまで異常は無かったのに!私は寝ているビンズを叩き起こし殴られる。

安眠妨害かてめぇ!

ごめんてぇ!

私は不機嫌なビンズの体をスキャニングするが特別異常は無かった。あ、あれぇ?おかしいなぁ、健康そのものだぞ。ビンズは少しキレ気味だったが冷静に話を聞いてくれた。

正体不明の菌がいるだぁ?そりゃ三十惑星の異星人がごった返してたらテコヘン星にはない菌くらいつくだろ。

痛いところついてくるなぁ。その通りなんだけども、この菌の様な物は明らかに私の体の中で増殖して成長を続けている!さっきの怪しいメールといい、オレンジの隕石といい、何か変な事が起こっている気がしてならない!私は冷蔵庫からサラミを取り出して食べようとするがやめた。それを見ていたビンズも首を傾げる。お前、そんなにお腹空いているのかと。確かにそうだ。起きてから塩味のある物をついつい手に取ってしまう。ビンズがビュッフェでかっぱらってきた、つまり彼のものだとわかってるのに。するとまた部屋の外から大きな物音がする。ビンズと私は光線銃を手に取り部屋の外に出る。


我々が見たのはおぞましい光景だった。背中が異様に盛り上がった異星人達が争っている。いや、どうやら体に異常が出ている者が人を襲っている様だ。背中が盛り上がった異星人達は同族、異種族関わらず襲い、おまけにやたら肉などの食い物を持ってまるで獣の様に貪っている。しかも目は黄色く光っている。我々は体に異常が出ていない人々を誘導し、ビンズはこちらを襲おうとする異星人に光線銃で威嚇射撃をする。

止まれ!これ以上は見逃せないぞ!

だが、ビンズの威嚇射撃は効果がなく、ついに迫り来る異星人達の背中から何かが這い出てくる。まるで繭から成虫が出てくるかの如く。綺麗な蝶なら嬉しいものだが、生まれたのはそんな都合の良い生き物ではなかった。


まるでカビの様な肌色に少し暗めの黄緑色の目。手は触手のようで、似たようなものが体からもニョロニョロと生えている。また、体にはキノコのような物が生えており、自らを菌の化身だとでも言いたいくらい主張している。そして鋭い牙と足の爪が体の色に合わないほど純白であった。

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おぞましい生物が次々と生まれこちらに牙を向く。ビンズが生物達を見て言い放った第一声が実に的を得ていた。

気色悪い!!

生物達はこちらに襲いかかってくるが、惑星調査団最強のガンマンと謳われるビンズはそれをひたすら返り討ちにしていく。だが、周りでは生物に絞め殺されたり、食い殺される人々も相次いだ。我々は生き残った人々を集め基地の奥の部屋まで退避した。


とりあえず我々が救えたのは十数名。その中にはオズマンもいた。ここはどうやら休憩所の様だ。扉は鍵がかけられるから何とか持ち堪えられそうだ。だが部屋越しからでも生物に対抗する人々の声が聞こえる。皆が恐怖に怯える中、ビンズと軍人達は武器を数えていた。そうか、急に飛び出したもんだからビンズも光線銃1丁だけか。他の人たちも拳銃やナイフ、手榴弾を持ってる者もいたが爆弾系は基地内で使ったら穴が空いてしまうから使えない。私は今いる人達の体をスキャニングしたが、やはりあの生物を形成した菌らしき物がわずかながらに皆寄生している様だ。オズマンは私が見たメールと同じものを見たらしい。内容はあのオレンジの隕石や寄生生物の事だった。我々2人が照らし合わせた答えはこうだ。あのオレンジの隕石にはあの生物を生み出すための菌の様な物が噴射されて、それが体の中で増殖と合体を繰り返して成長し、完全体になったら体を突き破って出てくる。栄養源は体内のタンパク質と塩分、私がサラミを欲しがった理由がそれだ。それとは知らず食べてしまったら、自身の死を早めてしまうというわけだ。だが弱点もある。塩分は好きだが、糖分は大の苦手らしい。ビンズから菌の反応が出てないのは、大量のジュースを飲んだから菌がこれっぽっちも成長できず死滅したからだろう。私も寝る前に紅茶に砂糖を入れていたからな。スキャナーに映らなかったのはそれ程までに小さいものから成長が始まったからだろう。いずれにせよ、超成長型寄生生物的なものが偶然にも隕石と飛来してきた訳だ。いつどこで生まれたかは知らないが、それを探るのはこの状況を脱してからだな。あの生き物は成体になってからは同じ菌を出す事はない様だ。でなければ今頃我々の体に異常が出るはずだからな。それに、今まで他の星では見られなかった事を考えると、菌はどこかで生まれても成体になった後の繁殖能力は皆無なのだろう。つまり、奴らは残りの人生を暴れて過ごす訳だ。生き物というのは子孫を残して遺伝子を紡いでいく。この菌はある日突然現れて、ただ成長し暴れて終わりを迎える。我々知的生命体からすれば何と身勝手な奴らなのだろうか。糖が弱点だと知ったビンズはスマホを使いSNSで大量の砂糖を持ってきてくれる命知らず達を募っていた。彼のフォロワーは国を動かすレベルでいるが、彼の報告によると1番近くにいる者でも後1時間は来れないそうだ。他の人々も救援を呼んでいたが、やはりかなり時間がかかるらしい。それまでは戦える者達であの生き物を少しでも減らさなければ。その時、激しくドアを突き破ろうとする音が聞こえる。サワサワと触手のなびく音が聞こえる。我々は意を決して武器をとり、部屋の外に出て生き物達と対峙する。


ビンズと私は異星人の軍人達と共に生き物達と戦う。非戦闘員を庇いながらであるため、避難しながらの戦いは困難を極めたが、ビンズはそれでも多くの生き物達を撃退していく。さすがビンズだ、こういう時の彼は誰よりも頼もしい。私も途中手に入ったジュースや飴玉を食べながら光線銃で応戦する。私は飴玉を皆に分け与えつつ、試しに生き物にも投げつけてみた。すると生き物はそれを口に入れすぐに吐き出す程度であまり効果はなかった。どうやら成体になったら砂糖は効かないらしい。ビンズが光線銃で応戦しているとアクシデントが起こった。何とビンズの真上にあった換気扇から生き物達が現れビンズを触手で縛りつけようとしたのだ。ビンズも気づいたが、完全に避けきれず複数の生き物に囲まれてしまった。すると隣にいたオズマンが私の肩を叩く。

ベーリッヒ!向こうに子供が!!

向こう側の廊下に生き物達に囲まれている女の子の異星人がいた。するとビンズは私にこう伝えた。

お前が行け!戦闘員は足りてる!俺に触るなバイ菌が!

ビンズはそういって自ら生き物達の拘束を解き、生き物にドロップキックをお見舞いしていた。それに合わせて軍人達も生き物に立ち向かっていく。ここは心配無さそうだ、私は光線銃を持ってオズマンと共に女の子を救出に行く。


女の子は別室に逃げ込み生き物達に囲まれていたが、私が光線銃で撃退して危機は免れた。女の子は泣きじゃくりながら私たちに駆け寄ってくる。どうやら参加者のお子さんらしい。

パパがね!緑のお化けになっちゃてね!怖くて、ママともはぐれちゃってね、、、!

泣かなくて大丈夫だよ!今ベーリッヒおじさんが連れ出してあげるからね!

私は笑顔で女の子をあやすが、内心は泣きたくてしょうがない。何で子供の口からこんな事を出させなきゃならんのだ。その時だ、オズマンは私と女の子を突き飛ばした。

ベーリッヒ、危ない!!

私と女の子は部屋のドアの前まで転がり、私が何事かと思いオズマンの方を見ると、彼は生き物3匹に囲まれ今にも噛みつかれようとされていた。しまった、部屋にある換気口から侵入してきたのか!

うがああ!!ベーリッヒ、、、!その子を頼んだ、、、!

私はオズマンを助けようとするが銃の残弾はゼロだった。私はオズマンに駆け寄ろうとするがオズマンはそれを止める。

ベーリッヒ!今すぐ部屋を出るんだ、、、!僕は手榴弾で部屋に穴を開けてこいつらを追い出す!!さっき万が一の為に、もらっておいたんだ!

やめろオズマン!!そんなことしたら君まで宇宙に放り出されるぞ!!

ベーリッヒ、、、!君の研究を今必要としている人たちが、大勢いるんだ、、、!僕は、僕にとっても、皆んなにとっても1番の人間を守れれば本望だ、、、!

諦めるな!!今ビンズ達を呼んでくる!だから、、、!!

ベーリッヒ!!全ては、未来を築くために、、、!

オズマンはそういって手榴弾のピンを引き抜いた。私は女の子を抱えて急いで部屋を出る。部屋のドアを閉じ部屋を離れるため走っていたその途中、小さな爆音が私の耳に響いた。その瞬間、私は女の子を抱えるのをやめうずくまる。女の子を守る約束よりも、偉大な友を失った悲しみが勝ったのだ。私が悲しみに押しつぶされようとしていると、女の子は悲鳴をあげた。目の前にいたのはあの生き物だ。1匹だけでこちらにゆっくりと近づいてくる。そんなに、死にたいのか。私は今怒りと悲しみで貴様らを根絶やしにしたい気持ちだ!私は転がっていたビール瓶を持って生き物と対峙する。

容赦はしないぞ、、、!よくも、よくもオズマンを!

私がビール瓶を振るうと、瓶が当たることなく生き物はパタリと倒れた。私は数秒間、思考が止まった。そして生き物をスキャンすると、そいつはもう生き絶えていた。まさか、そんなはずは。寿命が短いタイプの生き物なのは予想していた。だがあまりにも短すぎる。こいつは今天寿を全うしたというのか?ふざけるな!!ほら、どうした!来いよ!新鮮な肉がここにあるぞ!勝負だ、ほら!お前らは、私に復讐の機会も与えずに死ぬというのか!散々暴れて、多くの犠牲を出して無責任に散ろうというのか!!


私の怒りは誰にもぶつける事は出来ず、私と女の子は倒れた人々と赤く湿った床を眺めながら仲間の元へと戻った。私のやつれた顔を見て、いつもは能天気な相棒も、今回ばかりはひとつもジョークを発さなかった。


その後、多くの救援部隊が駆けつけ除染作業並びに大量の砂糖菓子が振る舞われた。全員をスキャニングした結果、体にはもうあの菌はおらず基地内も無事であった。今回の死者は推定でも80人以上、それと同じく伝えられたのはカージャルの訃報。何を隠そう、彼があの破損したメールの送り主だったのだ。死亡の原因は、あの生き物の暴走によるものであった。女の子の母親は生きていたが、誰よりも泣いていた。私は部屋に戻り友を失った悲しみをトロフィーにぶつけようとしていた。残ったものがこんなものかという憤りだけが、今の私に渦巻いていたのだ。なぜ、多くの人々を救った彼らではなく、何も守れなかった私が残ってしまったのかと。

お前が価値あるものなら、友を蘇らせてみろ!父を失ったあの子の悲しみを取り除いてみろ!この事件をなかった事にしてみろ!出来ないのか!何とか言え、置物が!こんなもの、何の価値があるというんだ、、、!こんなもの!

私がトロフィーを地面に叩きつけようとした瞬間、ビンズはそれを止める。ビンズは私にこう言った。

そのトロフィー、俺に預けてくれないか。


ビンズは私に宇宙服を着せて基地の甲板に連れ出した。ビンズはトロフィーを宇宙に放り投げたのだ。

命をかけて多くを救った者へ、そして散った者たちへ。

これが、ビンズなりの弔いなのだろうか。だが、これでいい。あのトロフィーがなければ、もうこんな悲しい出来事を思い出す必要はない。私がビンズと共に基地の中に戻ろうとすると、ビンズは一瞬私を止めて無線で話しかける。

トロフィー、遥か彼方へ行っちまうぞ。脚色のないスピーチを期待してたんだがな。まぁ、終わったら戻って来いよ。

そういってビンズだけ基地内に戻っていく。なんだよ、自分が投げたくせに。表彰式じゃあるまいし、お前も笑っていけばいいのに。私はトロフィーの方へ走り出し大声で叫んだ。

カージャル、オズマン、、、聞こえるか!!私は宇宙一の学者になる!!全てを知り、誰も飢えず、誰も病に苦しまず、誰も泣かない世界をつくる!絶対に成し遂げる!!だから、、、!その日まで、トロフィーは君たちに預けたい、、、!

宇宙空間は広く、無音の世界だ。私の言葉が彼らに届いたかも、なんならトロフィーが戻って来るかなんてわからない。だが、彼らのくれた黄金に勝る勇気は、いつまでも私の中に残ってる。泣きながら飛んでいくトロフィーに叫ぶ私を見て、相棒が笑う事はなかった。


今回の事件の生物を「ウィルクロン」と命名。現在、生息地や生態を調査しているが未だ謎に包まれた存在である。ただはっきりとわかっているのは、砂糖があれば誰でも未然に防げるという点である。そして事件のあった基地の一室は、手榴弾によって破壊された箇所があるが既に修復されている。しかし管理者の意向により、一部の焦げ跡は「勇気の証」として今でも残されている。


宇宙人ビンズと小さき厄災



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いかがでしたか?我々も勇気や知恵によって支えられている事に、いつか大きく感謝しなければならないのかもしれませんね。

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今回もご視聴ありがとうございました😊








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