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詩『レジスタンス』

 神保町にあるミニシアターの先駆け「岩波ホール」が7月29日で閉館しました。学生時代によく通ったものです。あの当時、映画と言えばアメリカのハリウッド映画しか知らない世間知らずの私に、世界の広さと多様性を映画を通じで教えてくれたのが岩波ホールでした。今の時代だからこそ、こういった映画館が存続してほしかったのですが。一つの時代が幕を閉じたようで、寂しいですね。
 今回投稿した作品は、映画とも岩波ホールとも全く関係ないのですが・・・。


「こんなの着られない!」
そう言って僕は
母の編んだ赤いセーターを突き返した

学校で笑われたよ
女の子みたいだって
母は困惑した顔で僕を見つめた
僕だって悔しかったよ
でもね 
可愛いなんて言われたって嬉しくないよ
僕は男の子なんだからね

母は無言のままセーターを小さくたたみ 
箪笥にしまった
それ以来 
僕は二度とそのセーターを着ることはなかった

それは少年になるための 
僕の精一杯のレジスタンスだった
あの日を境に 
僕は少年への階段を登り始めたんだ

いつしか僕は大人になり
生まれ育った家を旅立つ時が来た
その日が来るのを 
僕は夢見ていた
荷造りをしながら 
何気なく箪笥を開けてみると
あのセーターがあの時のまま 
しまってあった

袖を通してみたけれど
僕の体は大きくなりすぎて 
着ることはできなかった

母への申し訳なさとともに
僕はあの時の自分が
愛おしく思える
ボストンバッグの底へ
僕はそっと赤いセーターをつめ込んだ
こうして僕は
少年から青年へと
その一歩を踏み出した


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