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城山文庫の書棚から075『夜明けを待つ』佐々涼子 集英社 2023

歌舞伎町の駆込寺、入国管理局の理不尽、国際霊柩送還士そして在宅終末医療。人間の生と死を見つめ、優れたノンフィクション作品を次々と発表してきた佐々涼子さんのエッセイ&ルポルタージュ集。彼女の仕事の集大成となるであろう一冊。

地下鉄サリン事件の首謀者ら7名の死刑が執行された日、佐々さんは友人や息子とモヤモヤについて語らう。自分が正しいと信じて疑わない人達が間違えたのがあの事件であり、閉じ込められた人の集団は腐る。その通り。だけどモヤモヤは消えない。

一時期人生に迷った著者は、タイやインドの宗教者を訪ね教えを乞う。禅僧からは、果てしない競争社会から「降りる」ための技法としての禅を学ぶ。社会は生産性のないものを「愚」と呼ぶが、仏教ではそれを「聖」と呼ぶさかさまの世界だ。

あとがきを読んで愕然とする。佐々さん、悪性の脳腫瘍を患い余命あとわずかだそうだ。それを知って改めて表紙を見つめる。なんて切ない思いを込めたタイトルだろう。お会いしたこともないのに胸が張り裂けそうになる。少しでも長く平穏な日々を過ごしてほしいと願う。