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読書感想文 "medium 霊媒探偵 城塚翡翠"

ああ、ぼくは今いい本を読んだんだな。
感想を一文で書くならこれだけで十分だ。

本を読み終わり、閉じ、裏表紙のあらすじを改めて読む。話の内容を全て知ってから読むあらすじは、また一味違う。

それからもう一度表紙を見直す。
本を閉じ、あらすじを読み直し、表紙を眺める。
この一連の動きは、読書に満足したぼくがよくとる行動だ。

本格ミステリが好きなぼくにとって、タイトルの時点で「霊媒」と入っているとどこか身構えがちだ。

美少女が霊能力を駆使して難事件を次々に解決!
決して嫌いではないが普段は読まない。そんな雰囲気だった。

「あ、わたし、新谷さんとお友達になれそうなんですよ」
「わぁ、よろしいんですか?」
「え、でも、オムライスが……」

主人公・城塚翡翠の発する言葉は、いつもどこかたどたどしく頼りなく、儚いようなかわいさが滲んでいる。

作者が登場人物をかわいいと思わせる理由はなんであろう、と読みながらずっと考えていた。
それはもちろん、自分が生み出したキャラクターなのだからかわいいに決まっている、という話は置いといて。

ぼくも子どもの頃、自分で漫画や小説を書いていた。書いていたと言ってももちろん拙い。唯一の読者はぼくの兄であり、また兄の書いた漫画や小説の唯一の読者はぼくだった。

幼いぼくは、絵のうまさやストーリー展開の実力が、年々兄に劣ってきていることはわかっていた。だからこそ焦り、なんとかその差を埋めるために、自分の描くキャラクターに個性を持たせようとした。

このセリフを言ったらかわいいんじゃないか。
この仕草をしていたらかわいく見えるのでは。

それはけっきょくは、自分はこんなことをしている異性を見るとときめくよ、と兄に自白しているようなものだ。恥ずかしい。

では城塚翡翠のかわいさはなんだろう。
相沢沙呼さんのように有名な作家さんが、焦りや媚びでキャラをかわいくしているとは考えにくい。

霊媒師という妖しげな職業や、翠の瞳を持っていることももちろんだが、"かわいい"という彼女の個性がより彼女をミステリアスに演出している。

そんなミステリアスな雰囲気が常に漂っているからか、ストーリーはいつもどこか妖しく不安定だ。

霊媒と論理。相反する力を互いに駆使しながら事件に立ち向かう様は斬新で、オカルトなはずなのに本格で、いったい自分はなにを読んでいるのだろうと問いかけたくなる。

問いかけているうちに物語は終わってしまう。
読み終わったときは少しの寂しさと、自分の中での考えの変化に気づくのだ。

つまり、ミステリに対する考え方を少し改めようと思った。本格ミステリが好きだからこそ、整合性にこだわりすぎていたのかもしれない。

「この描写、後付けじゃない?」
「この証拠品、解決編になってから突然出てきてるじゃん!」
「それは憶測に憶測を重ねてるだけで、、」

なんて、本格ミステリ評論家を気取っていろいろ言っていたこともあったが、そんな自分がなかなかに滑稽だ。

またこのキャラクターに会いたい、と読者に思わせた時点で作者の圧勝だ。

キャラクターにときめいたうえに、ミステリの完成度にはしっかりと驚かされた。オカルトなのに本格。そんな世界があるのだ。
そしてぼくはもう一度、城塚翡翠に会いたい。

さて、御託をならべてきたが何が言いたいかと言うと、刊行されている続編を買いに今すぐにでも本屋に行きたいということだ。

「普段は読まない」なんていうぼくのちっぽけな常識を壊した城塚翡翠と、彼女の母親である相沢沙呼さんに感謝をこめて。

ちなみにこの本は、同じく読書好きの知人に勧めてもらった本である。今度会ったときには、熱く語らせていただきたい。

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