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『異人たち』はマイノリティの孤独を映像化した涙の傑作

 日本の小説を原作とした洋画ってあまりなくて、最近だと『ブレット・トレイン』、『沈黙 -サイレンス-』くらいでしょうか。

 『ブレット・トレイン』は清々しいほどとんでもジャパンだったので、元々が伊坂幸太郎氏の小説とは思えない感じでしたが、『沈黙 -サイレンス-』はスコセッシだけに真面目な作品でしたね。

 スコセッシ監督は狐狸庵先生こと遠藤周作が好きなようで、『沈黙 -サイレンス-』は原作と出会ってから28年のときを経てようやく映画化し、次回作も『イエスの生涯』を原作とした作品の予定です。

 ただ遠藤周作はまだわかるんですよね。ゴリッゴリのクリスチャンで、キリスト教圏には親和性が高い作家だと思うので。

 なのでアンドリュー・ヘイ監督が、山田太一原作の『異人たちとの夏』を元に映画化すると聞いたときには、なんで?というかよく知ってたな…というのが正直な感想でした。


大林宣彦版『異人たちとの夏』

 そこで映画ファンとして思い浮かぶのは、原作小説より大林宣彦監督の『異人たちとの夏』でしょう。

 この作品で主人公の父親役を演じている鶴ちゃんこと片岡鶴太郎さんは個人的には「プッツン5」のイメージが強いですが、映画出演3作目(というか本格的な映画出演はこれがはじめて)でこの大きな役に抜擢され、日本アカデミー賞助演男優賞まで受賞しちゃいました。

 ただですね、

 『異人たちとの夏』はプロットだけで泣けちゃう感じですが、この映画自体は正直いま観るとトンデモ映画としか思えず、「名作」と考えるのはちょっと厳しい感じの作品です。(少なくとも大林監督のベスト1ではない)

 なんでこんな出来になったのかと思ったら、制作会社松竹からの発注は「夏に観客をぞっとさせるゾンビ映画」だったそうなのです。

 『異人たち』を観て大号泣した自分としては、主演に風間杜夫さん、共演に秋吉久美子さんに名取裕子さんと芸達者な俳優ばかりだったことを考えると、「ゾンビ映画」ではなくて、原作に真摯に向き合った大林監督版を観たかったですね…。

アンソニー・ミンゲラ監督も興味を持っていた!?

 そんな『異人たちとの夏』ですが、調べてみると映画化のきっかけは2003年に英訳版が刊行されたことのようです。

 『イングリッシュ・ペイシェント』でお馴染みアンソニー・ミンゲラ監督が映画化に興味を持っていたそうなのですが、彼が2008年に亡くなったことで一度その企画がなくなっていたところ、2017年ごろにサーチライト・ピクチャーズにより再始動した、というのが今回の再映画化の大まかな流れようです。

 つまりアンドリュー・ヘイ監督は、脚本も手掛けているのですが、彼の企画というより、元々存在した企画にアンドリュー監督が抜擢された、と。

 アンソニー・ミンゲラ監督に比べると、アンドリュー・ヘイ監督は(『さざなみ』でシャーロット・ランプリングをアカデミー賞主演女優賞候補にするなど功績はあるものの)正直格落ち感は否めないところですが、彼のパーソナリティも相まって素晴らしい作品になったので、サーチライト・ピクチャーズへの信頼度はかなり増しましたね。

佳作『WEEKEND ウィークエンド』

 アンドリュー・ヘイ監督を語るには欠かせない作品はなんといっても『WEEKEND ウィークエンド』です。

 同性愛者ふたりの"週末"を描いた作品で、英国インディペンデント映画賞をはじめとした数々の賞を受賞。(受賞数は24で、ノミネート数は23)

 日本での初公開が東京国際レスビアン&ゲイ映画祭(2012年)であることからわかるように、同性愛描写は多く、その点で少々受け入れづらい方も多いかもしれません。
 ですが、セリーヌ・ソン監督が自身の体験を元に映画化した『パスト ライブス/再会』のように、監督がそのパーソナリティを映像化するのは自然なことなのでしょう。

 そういう意味でゲイを公表しているアンドリュー・ヘイ監督にとって、『異人たちとの夏』の主人公を同性愛者に変更したことは、作品を作るにあたって必要なことであったことが想像できます。

旬のキャストがズラり

 本作品の注目ポイントは、『異人たちとの夏』が原作であるだけではありません。
 登場人物は多くないのですが、その俳優陣がとても豪華!

アンドリュー・スコット

 本作までアカデミー賞まであと一歩だったアンドリュー・スコットは、ネットフリックスのドラマシリーズで主演を担うなど、着々とキャリアアップしています。

 彼もまたゲイを公表しています。

ポール・メスカル

 アンドリュー・スコットの相手役を務めるのは、ポール・メスカル。

 『Aftersun/アフターサン』でアカデミー賞のノミネーションを果たすと、『グラディエーター』の続編で主演を務めるほどの大出世。
 おそらく来年のノミネーションは堅い。

クレア・フォイ

 エリザベス2世の半生を描いた『ザ・クラウン』で主演を努め、見事ブレイクしたクレア・フォイ。

 今回は難しい役どころを見事演じあげ、BAFTA(英国アカデミー賞)のノミネーションを獲得。クライマックスは彼女が持っていった感じ。

ジェイミー・ベル

 『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベルがいつの間に父親役をやる年齢に!ということでかなり驚愕しましたが、今回一番泣かされたのは彼でしたね。

 昨年の賞レースで全然注目されなかったのは残念でした。

本日のドレス:エマ・ストーン

 背中のファスナーがぶっ壊れるほどライアン・ゴズリングの"I'm just Ken."ではしゃぎすぎたエマ・ストーンのドレスはルイ・ヴィトン。

 ドレス選びは外さない分、あまり冒険はしないタイプ。(★★☆)

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